第14章 秘薬を求めて※
そんなことを考えながら、今度は右のこめかみ辺りから伝ってきた汗を拭おうとしたその時
「このお花、きれいだと思いませんか?」
門の女性がそう言いながら徐に卓の真ん中に置かれている花瓶へと手を伸ばした。
「……そうですね。あまり見たことのない種類の花ですが…なんていう花なんですか?」
何の気なしにそう尋ねた私だが
「これですか?私たちの里ではこれを”誘幻花”と呼んでいます。この花の香と花粉には名前の通り、人を誘惑し、惑わす効力があるんです」
「…っ!!!」
サラリと告げられたその事実に、私は大きく目を見開き固まる。
「私たち里のくノ一で作り上げた特別な花。香りがないのに効果はある。すごいと思いませんか?」
私は急いで息を止め、鼻と口を塞いで立ち上がろうとするも
…っ…力が…上手く入らない…!!!
フラリとよろけてしまった。そうしている間に
「天亥様のお兄様のお弟子さんってだけあって、貴方はなかなか強い身体をお持ちのようですね。効果が出るのにこんなに時間がかかるなんて初めてです」
「…!!!」
そう言いながら妊婦の女性が私を羽交い絞めにしてきた。
流石くノ一というべきか、巧みに関節を取られ、あっという間に動きを封じられてしまう。さらに正面からは、誘幻花を花瓶から抜き、それを手にしたまま迫ってくる門の女性の姿が。
…っ…まずい…!
私は舌の下側に隠していたスパイスをコロリと転がし
ガリっ
と思い切りかみ砕いた。
……っ…辛っ!!!!!
涙が出て来そうになるほどの刺激に、フッと身体が軽くなったような気がした。
「…響の呼吸肆ノ型…空振浄波」
私を中心にブワリと広がる音の波に
「…っ何!?!?」
妊婦の女性は驚き自らその手を離した。