第14章 秘薬を求めて※
「…申し訳ありません。天元様に決して何も口にしないようにと言われております」
「あらあらそれは残念です。このお茶も、駄目なのですか?」
「貴方たちが来るからと特別に買い付けたお茶なのですが」
妊婦の女性(こんな呼び方をして大変失礼だとは思うがこれも致し方ない)も、僅かに首を傾げ私の顔を覗き込むようにしながらそう尋ねてくる。
「申し訳ありません」
丁寧にそう答えるも
誰がそんな怪しいもの口にするもんですか。何が入ってるか分かったもんじゃない
そんな失礼なことを内心思っていた。
「「それは残念です」」
「………」
やはり重なり合う2人の声は、きっちりと”仕込まれた”ように見えてしまい、私のよく知った3人がたまになるそれとは似て非なるものだ。
…それにしても…どうすれば…こんなに音数が少なく過ごせるんだろう
終始気配を探りながら音を聴き続けているが、”人”が普通に生活しているとは思えないほど音が聞こえない。
左耳が聴こえ難いせいなのかと最初は思ったが、どうにもそうじゃないようだ。
…おかしな気配も音もない…本当にただ天元さんが戻ってくるまで待たされるだけなのかな…?
時計もない閉ざされた部屋ではどれだけ時間が経過しているのかよくわからず、ただただ門の女性と妊婦の女性がたまにお茶をすする音と、草木のせせらぐ音が聴こえてくるだけだった。
……あ…要の気配がする
その中でごくたまに感じられる要の気配が、疑心暗鬼に陥る私の心を落ち着かせてくれたのだった。
状況が変わったのは体感1時間ほど経った頃。
……部屋が…暑くなった…?
少しも動いていないと言うのに、私のうなじから汗が伝い落ち、身体の火照りのようなものを感じ始めた。
…何かされた…?…でも…誰か来た気配も音も…この二人が何かした様子もなかった。…天亥様は”里の長”として天元さんと話しているように見えたから…本人も言っていた通りせっかく成立した交渉を…なかったことにするようなことはしてこないはず………ただ単に気温が上がっただけ…?