第14章 秘薬を求めて※
「………」
そんな天亥様の言葉に、天元さんの肩が僅かに反応を示した。そのあとすぐ、天元さんがチラリと私の様子を横目で確認してきたので、私はその視線に応えるようにただじっと見つめ返した。
私の意をしっかりと組み取ってくれた天元さんは、視線を再び正面にいる天亥様へと戻すと
「……わかった」
そう答えた。
「話が通じる相手で助かる」
天亥様はそう言うと”パンパン”と2回手を叩いた。すると
……気配が増えた…
私と天元さんが座っている後方の襖がスッと開き
「お呼びでしょうか」
振り返った視線の先には、忍び装束を身に纏った天亥様とよく似た表情をした男が立っていた。
「こいつがあの忌々しい化け物を退治する。お前はそれに付き添え」
「承知いたしました」
必要最低限しか交わされないやり取りが、2人の関係の希薄さを示しているようだった。
「鬼のねぐらは日中も陽が差さない場所か?」
「そうだ。奇怪な術を扱うが、まぁそんなもの、”鬼殺隊の柱”とやらは容易に倒せるのだろう」
挑発するような天亥様の発言に
「ったりめぇだろ」
天元さんはそう言いながらスッと立ち上がり、後方にいる天亥様のお付きの人の方に振り返った。
「時間が惜しい。さっさと行くぞ」
特にどうしろと言われていない私は、その場に正座をしたまま、随分と上にある天元さんの顔をじっと見ていた。 天元さんはそんな私の横をスッと横切り、お付きの人が立っている出入り口の方へと進んでいく。
それからその人の前でピタリと立ち止まると
「天亥」
振り返ることなく天亥様の名を呼んだ。
「なんだ」
「そいつにちょっかい出してみろ。俺も必ずお前と同じことをし返す」
その声色は酷く真剣なそれで、言っていることはとても物騒にも関わらず、私は安心感を覚えてしまう。
「成立した交渉を崩すようなことはしない。貴様が戻ってくる間、その女が嫌がることはしないと約束しよう」
……嘘を言っている感じはしないけど…なんだか引っかかる言い方だな
私のことなど見向きもせず、天元さんの背中を無表情で見ている天亥様をジッと観察するが、その無機質な顔からは何も読み取ることが出来ない。