第14章 秘薬を求めて※
「元気そうで、兄者」
高座に胡坐をかきながら座りそう言ったのは
「お前も、元気そうじゃん。天亥」
里の長である宇髄天亥様だ。互いになんでもないことのように挨拶を交わす兄弟の会話を聞きながら
…天元さんの弟は…”てんがい”様って言うのか…髪の色は全然違うけど…顔とぱっと見の雰囲気はよく似てる
そんなことを考えていた。もちろんその間も、この場にいる人間、天亥様、先ほど私たちを案内してくれた女性、そしてもう一人、お腹のふっくらとした女性(子を身ごもっているんだろう)の様子、更には部屋全体の気配を探ってみるが、私と天元さんに害を加えて来そうなものはない。
「こうして俺たちを出迎えたという事は、お館様からの文には目を通してあるんだろう?」
「あぁ。この世に鬼などという化け物が存在するとは驚きだ」
「鬼の存在を知っているのは襲われた人間と、俺たち鬼殺隊の関係者くらいだからな」
「成程。特別な刀でないと倒せないとは、極めて厄介な存在だ」
”厄介な存在”…と言いながら少しも声の調子を変えない天亥様からは、感情というものを全くと言っていいほど感じず、背筋がスッと冷たくなった気がした。
「特別な刀でしか倒せない”鬼”とやらをお前が退治してくれる。その代わり秘薬の調合法を教えろと、そう言う要求だったな」
「そうだ。ここに来るまでの道すがら里の様子を見せてもらったが、随分と女が少なく見える。これ以上女子こどもが襲われるのは、里の存亡にかかわるんじゃねぇのか?」
「その通りだ」
天亥様はそう言うと
…はぁ
と、あまり感情のこもっているようには見えないため息を吐き
「里の外から女を攫って来ても体力も精神力も未熟で質のいい子を産まない。そんなのはいない方がマシだからな。攫ってくるのはやめたんだ」
さも当然のことのようにそう言った。
「………」
ギリッと膝の上に作った拳を強く握りしめ、私は腸が煮えくり返りそうなその発言をなんとか聞き流した。