第13章 幸せすぎる無理難題と悲しすぎる別れの口火
「あの者……獪岳は君に好意を寄せているようだな」
杏寿郎さんのその言葉に、腕に向けていた視線を杏寿郎さんへと移すと、杏寿郎さんはじっと私の腕の変色部を見ていた。
「……そんなんじゃ…ないと思います」
私がそう言うと、杏寿郎さんも腕の変色部ではなく、私の目をじっと見てくれた。
「獪岳は…相手にとって自分が一番じゃないと…自分だけを認めてくれないと気に入らないだけなんです」
「どういうことだ?」
「…杏寿郎さんも知っての通り、私は善逸のことを誰よりも信頼してるし、善逸も私に対して同じような感情を抱いてくれてると思っています」
私がそう言うと、杏寿郎さんはわずかにムッとした表情を見せた。
「そんな顔しないでください。善逸は私にとって本当の弟みたいなもので…恋人として慕っている杏寿郎さんとは次元が違うんです」
そんな私の言葉に
「そうか!それはよかった!」
杏寿郎さんはそう言いながら微笑んだ。
「話を元に戻しますよ?」
「うむ!」
私は再び自分の腕の変色部へと視線を戻すと、そのを反対側の手で覆った。
「…獪岳は、そのことが兎に角気に入らないんです。私が、獪岳が自分よりも劣っていると認識している善逸のことを頼りにしたり、仲良くしたり、気に掛けることが。興味もないくせに、自分の手の届く範囲にあったおもちゃを取られて怒っている…そんな感じなんだと思います」
杏寿郎さんは、”むぅ…”と唸りながらその猛禽類のような瞳を閉じ、何かを考えているようだった。けどもすぐにパチリとそれを開き
「俺には全く理解のできない感情だ!」
斜め上の方を見ながらそう言った。
「残念ながら私にもわかりません…だから獪岳が私を好いているとかそんなことは絶対にあり得ません」
きっぱりとそういい放った私を、杏寿郎さんは僅かに眉をひそめながら見ていた。