第13章 幸せすぎる無理難題と悲しすぎる別れの口火
そんな杏寿郎さんの行動に獪岳はギリッと歯を食いしばりながら無言で数歩後ずさる。
それから杏寿郎さんへと向けていた視線を私の方にずらすと
「……俺と来なかったこと、必ず後悔させてやるからな」
不満と恨みがこもった言葉を私に向け放った。私はそんな獪岳をじっと見据え
「そんなの絶対にしない。私はどんなことがあっても杏寿郎さんの側にいるって…そうなれるように強くなるって決めたの。あんたにあれこれ言われる筋合いなんて……ない!」
一瞬たりとも目をそらすことなくそう言い放った。
獪岳はチッと小さく舌打ちをした後、くるりと踵を返し歩き始めた。
「…っ…獪岳…!」
私の呼びかけに、獪岳は振り返ることはしなかったものの、ピタリとその足を止めた。
「…じぃちゃんのところに…たまには顔出しなさいよ?」
隊士になってから一度も顔を出せていない私が何を言ってるんだと思いはしたが、私はどうしても獪岳にそう言わずにはいられなかった。けれども
「……俺を認めないやつのところになんか誰が帰るか」
獪岳は吐き捨てるようにそう言うと、その場を走り去ってしまった。
どんどん小さくなっていく背中を見ながら思うのは、誰よりも獪岳の行く末を案じているじぃちゃんの姿だった。
……忍の里への任務が済んだら会いに行ってみよう
私は結局、その背中が見えなくなるまで見続けたのだった。
完全にそれが見えなくなった頃
「腕を見せてみなさい」
杏寿郎さんが、獪岳がそうしていたのと相反する優しい手つきで私の右手を掴んだ。そのままスルリと掴まれていた部分を捲り上げられると、手首の一部分が僅かに赤くなっていた。
…隊服の上から掴んでたのに跡がつくなんて…
色の変わってしまっている私の手首から、獪岳が本気で私のことを連れて行こうとしていたことがありありと伝わってくるようだった。