第13章 幸せすぎる無理難題と悲しすぎる別れの口火
色んな意味で思考回路が働かなくなってしまった私は、情けないことに、あの後の話をあまり覚えていない。全体の流れと、最低限自分が何をすべきかを辛うじて覚えているだけである。
「そう目クジラを立てることはない!お館様も、あのように仰られていたではないか!」
杏寿郎さんはそう言うと隣に立っていた私の肩をグッと徐に抱いてきた。
「…っちょっと!何するんですか!」
まさか天元さんが目の前にいるのにそんな事をされると思っていなかった私は、先ほどの落ち込み具合は一体どこへ行ったのか、杏寿郎さんの手を肩から退かそうと激しく肩を揺らしてみせた。
そんな私の行動に
「何故そのような事をする?」
杏寿郎さんは酷く不満気な表情を私へと向けてきた。そして"決して離さない!"と言わんばかりに私の肩に置くその手の力を強めた。
「っ何故って…天元さんが見てるじゃないですか!」
私の言葉の通り、杏寿郎さんの隣に立っている天元さんは私と杏寿郎さんの顔を相も変わらずニヤケ顔で見ていた。
「気にする必要はない!なにせ俺と鈴音はお館様公認の仲となったわけだ!堂々と仲の良さを見せつけることに何の問題もないだろう。まして宇髄は俺と鈴音が婚約を結んだ立会人とも言える人間だ!」
「……はい?」
…今…杏寿郎さん…"婚約を結んだ"って…そう言ったの?
不可解すぎる杏寿郎さんの発言に、私の眉間に深い皺が刻まれる。もはやそっちが気になり過ぎて、私は現在進行形で抱かれている肩のことなどどうでも良くなってしまった。
「…杏寿郎さん」
「む?どうした?」
首を傾げ、きゅるんとした目で私を見てくる杏寿郎さんの顔は可愛いともかっこいいとも言えてしまうそれで、危うく胸がときめいてしまいそうになる。
…違う!しっかりするのよ、私!
頭を軽く左右に振り、邪念を振り払った私は
「私がいつ、杏寿郎さんと婚約を結んだって言うんです?」
身体の前で両腕を組み、杏寿郎さんをジロリと睨むように見ながらそう尋ねた。