第13章 幸せすぎる無理難題と悲しすぎる別れの口火
「遅くなりすまない!」
「別に待っちゃいねぇよ」
「しばし寄り道をしてしまってな」
「ほぉ…寄り道ねぇ?そりゃあ一体どんな寄り道だぁ?なぁ、鈴音」」
天元さんは、杏寿郎さんの隣にいる私を覗き込むようにしながらそんな事を尋ねてくる。私は決して余計なことは言うまいと口を固く閉ざし、それに加え”余計なことを言わないで!”と言わんばかりに杏寿郎さんをジトリと見やった。けれど
……ちょっと待って
はたと気が付いてしまった。
「…杏寿郎さん」
「なんだ?」
「…杏寿郎さんには、天元さんがここにいる姿が見えていたわけですよね?」
「そうだな!」
「…むしろ、天元さんの姿が見える前から、天元さんがここにいることに気が付いていたんですよね?」
「そうだな!」
当たり前のようにそう答えてきた杏寿郎さんに
「…っじゃあどうして…ここに来る前に…降ろしてくれないんですか!」
小声で文句を言いながらキッと鋭い視線を向けた。
「む?何か問題があったか?」
杏寿郎さんはそんな私の様子を、首を僅かに傾げ不思議そうな表情を浮かべながら見返してくる。
「…っあのですねぇ……!」
言葉を続けようとした私だが、僅かに聞こえてくる天元さんの全く堪えきれていない笑い声に
「…っ…なんでもありません!」
その先の言葉を飲み込んだ。
「なんだぁ?もうイチャつくのはやめんのかぁ?」
揶揄い口調でそう言ってきた天元さんに
「イチャついてません!」
私は思わず声を大きくしてしまう。すると
「コラ。間も無く奥方様かご子息がお見えになる。そんな風に騒いではならない」
身体の前で腕を組み、真剣な顔をした杏寿郎さんに注意をされてしまった。私は、さも自分は関係ないと言わんばかりのその態度に
……この人は…もぅ…!!!
何か文句でも言いたいところではあったのだが、ぎゅっと両手に作ったこぶしを握り締めそれを堪えた。
「…失礼しました」
天元さんは、杏寿郎さんをジトリと見ながらそう呟いた私の様子を無表情で見ていたのだが
「…っ無理だ…我慢できねぇ」
そう呟くや否や
だっはっはっはっは!
綺麗な庭園に響き渡らんばかりの大声で笑い始めた。