第13章 幸せすぎる無理難題と悲しすぎる別れの口火
お館様のお屋敷向かっている最中だというのにいったい何をしているんだろうと思う一方で、すぐに離れてしまうのはどうにも名残惜しく
……あと少しだけ…
暫く離れることが出来なかった。
軽く重ねていただけの唇をゆっくりと離そうとしたその時
「……っひゃあ!」
杏寿郎さんは、一体どんな動作をすればそんな流れるように人を横抱きに出来るのか…と、聞きたくなるほどの鮮やかさで私の身体を再び横抱きにした。
「ぜひ明日も…いやこれから毎日!君からしてくれると俺は嬉しい!」
言っている内容はともかく、あまりにも杏寿郎さんが嬉しそうに言うものだから、私の口角は自然とあがってしまった。
「…杏寿郎さんの…欲張り」
揶揄うようにそう言った私に
「わはは!俺が欲を張るのは君に関することだけだ!それくらいは大目に見てもらいたい!」
杏寿郎さんは楽し気に笑い声をあげながらそう言ったのだった。
”悪いが急ぐ!今度はしっかりと捕まっているように!”
そう言われた後再び耳栓をされた私は、今度こそ杏寿郎さんの言葉に従いしっかりとそのたくましい首に腕を回させてもらった。
身体に感じる圧と頬を撫でる…という言葉では表せないような風のあたり具合に、宣言通り杏寿郎さんが物凄い速度で移動していることが伺い知れた。
…さっきより…怖いじゃない…!
そんな速度で移動されてしまえば、どちらにしろ杏寿郎さんにしっかりと腕を回していなければ振り落とされてしまっていた可能性も否めない。
となれば
さっきの一連のやり取りは…必要だったの…?
そんな疑問が湧いてくるのは当然の結果だ。それでも、周りの音がよく聞こえないからこそ
ドクドクドクドク
と、身体に直接感じるような杏寿郎さんの力強い鼓動に、私はどうしようもなく安心してしまうのだった。