第13章 幸せすぎる無理難題と悲しすぎる別れの口火
情けない…何してるんだろう
私はぎゅっとズボンの端を握り、遮断されている視線を下げながら
「わかりました…考えがたりずにすみません」
杏寿郎さんへ謝罪の言葉を述べた。けれども
「何故謝る必要があるんだ?」
そんな言葉と共に、杏寿郎さんの気配がザッザッという小石を踏みしめるような音と共に近づいてくる。私は布で覆われ何も映していない視線を声のする方へと向けた。
「…えっ…だって…私が恥ずかしがって…杏寿郎さんの指示に従わなかったから…それでこんな無駄な時間を…」
私が口ごもりながらそう答えると
「…!?」
剣蛸で固くなった杏寿郎さんの手のひらが私の頬を撫でた。
「君がそうやって恥ずかしがるのは、俺相手にだけだろう?」
その問いに、私は黙って首を上下に振った。その反応に答えるように、私の頬に添えられた杏寿郎さんの手が、よりぴたりと私の頬に当てられる。
「鈴音とこうして恋仲になる前の俺であれば”上官の指示に従うんだ”等と言って済ませていたところだが、どうやら今の俺は、それが出来なくなってしまう程君が可愛くて仕方がないようだ」
そんな杏寿郎さんの甘すぎる言葉に、私の顔がブワッと熱くなった。
「…っ…そ…そんな風に甘やかされたら他の隊士に示しが付きません…だから、厳しく、厳しくお願いします…!」
「君に厳しくするのは宇髄の役目。故に俺は君を甘やかす…それが君の恋人である俺の役目ではないのか?」
優しく言い聞かせるように語る杏寿郎さんの声は、視界を遮断され、普段よりも更に音を拾ってしまう右耳の奥に甘く響いてきた。
「…それは……っ…そう!訓練の後は雛鶴さんまきをさん須磨さんが私を甘やかしてくれるので…間に合っています!なので杏寿郎さんは気にせず私に厳しくお願いします!」
恥かしさを誤魔化すように咄嗟に発したその言葉に、私の頬に添えられていた杏寿郎さんの手がピクリと反応を示す。