第13章 幸せすぎる無理難題と悲しすぎる別れの口火
「…無理って…何がです?」
杏寿郎さんの予想外の言葉に、私は首をかしげる。
グンと杏寿郎さんが膝を折り曲げた感覚に、私はヒョイと杏寿郎さんの背中から地面へと降り立った。衣擦れの音と気配から、私に背を向けていた杏寿郎さんが、こちらにクルリと振り返って来たことが伺い知れる。
何を言われるのだろうかと構えていた私に発せられたのは
「背負うのは密着し過ぎる!今まで女性を背負うことに何の躊躇いを感じたこともなかったが鈴音は無理だ!隊服を身にまとってなお感じるその身体の柔らかさが気になって仕方がない!」
「…んなっ!?」
”清廉潔白”と名高い炎柱の口から出てきたとは信じられないような言葉だった。
杏寿郎さんはあっけらかんとそんな事を言ってのけたが、言われた私の方はと言えば
かぁぁぁっ
と首から上がもの凄く熱くなり
「…もう!これからお館様のところに行くんでしょう!?変なこと考えないでください!」
半ば叫ぶように杏寿郎さんに文句の言葉を述べた。そんな私に
「そんなことは俺自身重々承知している。承知しているからこそ、俺も驚いているだ」
と、杏寿郎さんは真剣な声色で言った。更には
「どうも俺は君のこととなると、なにかと歯止めが効かなくなってしまうようだ。だがそんな自分も悪くない!俺は自分がこんなにも深く人を愛せると言うことを誇りに思う!」
なんて事を言い
はっはっはっはっは!
と高らかに笑い始めた。
嬉しいやら五月蝿いやら恥ずかしいやら…そんな様々な感情が混ざり合い、まだお館様の元へ出発してすらいないのにも関わらず、ものすごい疲労感を感じてしまった私は
「…そう…ですか…」
力なくがっくりと項垂れ、"やはり抱いていくしかないな!"と言いながら私を横抱きにした杏寿郎さんのされるがままになる他なかった。