第13章 幸せすぎる無理難題と悲しすぎる別れの口火
何とか絞りだした代替え案は
「…せ…背中に背負うんじゃだめですか!?」
「背中に背負う?」
横抱きでなく、杏寿郎さんの背に背負ってもらうことだ。
…刀鍛冶の里に連れて行ってもらう時も隠の人たちに背負ってもらったし、おんぶ…っていうとなんかこそばゆいけど、背中に背負われるくらいなら、されるのも見られるのも恥ずかしくないはず!
布で隠された視線を杏寿郎さんの声が聞こえてくる方へと向け、私は懸命に訴えかけた(我ながら何をこんなに必死になっているのか若干の情けなさを感じなくもない)。
「確かにそれでも問題ないな」
杏寿郎さんは”では降ろす”言いながら、つま先からゆっくりと地面に着くように降ろしてくれた。それから
「横抱きにしたことは多々あるが、鈴音を背負うのは初めてのこと。念のため、一度具合を見てもいいだろうか?」
そう言いながら私の前でしゃがみ込んだようだった。杏寿郎さんのその言葉は、”過去に何度も私を横抱きにしたことがある”という意味合いを含んでおり、初回か二度目か…どちらかはわかりかねるが、情を交わした後、私が気を失うように眠りについてしまったときに横抱きにされたことがあったのだろうと察しがついてしまった。
私は何とも複雑な気持ちを抱えながら
「…では、失礼します」
ゆっくりと杏寿郎さんの背中に身を預けた。
…うん。この方がいい。全然恥ずかしくない
「やっぱりこっちの方が安定感もありますし、杏寿郎さんも動きやすいでしょ?それじゃあ、耳栓するので私に渡してもらえますか?」
そう言いながら杏寿郎さんの首に回していた両腕のうち右の方だけを外し、杏寿郎さんが私の手に耳栓を置きやすそうな位置までそれを下げた。
けれども杏寿郎さんが私の手に耳栓を置いてくれる気配をちっとも感じない。
「…杏寿郎さん?」
どうしたのかと不思議に思い私が尋ねると
「無理だ!」
杏寿郎さんは、いつものハキハキとした口調でそう言った。