第13章 幸せすぎる無理難題と悲しすぎる別れの口火
悔しい事に、昨晩の私はとても良質な睡眠を取ることが出来た(久々の稽古で疲れていたのもあるはず絶対そうなはず)。
昨日と同じ朝稽古をし、急ぎ朝食を済ませた私と杏寿郎さんは
「準備はいいだろうか?」
「はい」
お館様の元へ向かうため邸の外に出た。
すると、その時を見計らっていたかのように、要がバサリと羽音を立てながら杏寿郎さんの肩に降り立った。
要の嘴には細長い布が咥えられており
「ご苦労だったな」
杏寿郎さんは要の首元を人差し指の背で優しく撫でた後、その布を優しい手つきで受け取っている。
あの布…何に使うんだろう?
そんなことを考えながら杏寿郎さんと要のやり取りを遠巻きに見ていたが、要に向けられていた杏寿郎さんの顔がパッと私の方へと向き
ぱちっ
と、杏寿郎さんの隻眼と視線が合った。
「こっちに来てくれ」
「……わかりました」
あの布の正体が非常に気になるところではあったが、これからお館様の屋敷に赴かねばならないのだから余計な時間を取るわけにはいかない。私は不安を拭えないまま杏寿郎さんへと近づいて行く。そうして杏寿郎さんの前で立ち止まった私だが
「うむ!では俺に背を向けてくれ!」
杏寿郎さんからさらなる要求に困惑してしまった。
「背を向ける?…どうしてです?」
指示に従い杏寿郎さんに背を向けてみたものの、結局は不安な気持ちが拭えずに何故それをしなければならないのかを尋ねてしまった。
杏寿郎さんの方に顔だけ振り返ろうとしたその時
「…っひゃ!?」
私の視界が遮断され、目の前が真っ暗になった。
「お館様の屋敷への道筋は限られた者しか知らされていない。柱や元柱、それから信頼のおける隠のみだ」
キュッと私の後頭部辺りで布が縛られる音が聞こえ、杏寿郎さんがあの細長い布で私の目を覆ったことを理解した。
「…そういうことですね。確かに、鬼殺隊に関わる人間はたくさんいますからね。大切な情報を外部に漏らさないためにも、人数を制限することは大切です」
「うむ」
ぐるりと身体を回転させられ、自分の正面に杏寿郎さんが来たことがなんとなく感じ取れる。