第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
眼帯の奥にあった杏寿郎さんの左目は、開かないようにしっかりと縫い合わされていた。僅かに窪んでいるようにも見えるそれは、人によっては痛々しいだとか、可哀想と思う人もいるだろう。
けれども私が抱いた感想は
「杏寿郎さん」
「……なんだ」
「どうしてそんなに格好いいんです?ちょっと…ずるくないですか?」
そんな感想だった。杏寿郎さんはそんな私の反応がよっぽど意外だったのか
「…は?」
と言いながらそれはもう絵に描いたようなポカンとした表情を浮かべている。
「だって!杏寿郎さん…ただでさえ整った顔をしていて人目を惹くのに…なんだかその傷でより魅力的に見えるんですもん」
私は先程眼帯を撫でた時と同じ手つきで杏寿郎さんの左目があった部分を撫でた。
…杏寿郎さんがどんな風になっても…私はきっと、ずっと、杏寿郎さんを好きでいられちゃうんだろうな…
その言葉を口に出す勇気はないが、その気持ちが伝わるように、繰り返し繰り返し、私は杏寿郎さんの左目を撫で続けた。
けれども
パシッ
「…っ!?」
杏寿郎さんの手が、私の手首をパッと掴み、そのまま布団へと縫い付けられ
ちぅぅぅっ
「…んぅ…!」
舌を差し込まれることはなかったが、私の唇の感触を確かめるような熱くて甘い口付けが降ってきた。
胸がキュンと高鳴るような口付けがしばらく続いたが
ちゅる
「…んっ」
杏寿郎さんの舌に再び唇を割られ、冷めてきていた熱に火をくべるような濃厚な口付けが降ってきた。
ちゅ…ちゅる…
それが離れていく頃にはすっかり私の身体は熱を取り戻し、互いの唇を繋ぐような卑猥な糸に、下腹部が再び快感を求め騒ぎ始めた。
杏寿郎さんは肩で息をする私にジリッと燃えてしまいそうな程の視線を寄越し
「…君は…どこまで俺を夢中にさせれば気が済むんだ!」
怒ったような口調でそんなことを言ってきた。