第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
「…っ…杏寿郎…さ…ん…あぁ…」
私の声質が僅かに変わったのを察知した杏寿郎さんは
「いいぞ…そのまま…身を任せるんだ」
そう言いながら指の動きを速めた。ただでさえ気持ちよかったのに、それを上回るような事をされてしまえば我慢など出来るはずもなく
「…っ…や…だめだめ…ふ…っあぁぁあ!」
私はビクビクと全身を痙攣させながら快感の果てを迎えた。
「上手に果てたな」
杏寿郎さんはそう言いながら汗で額に張り付いていた私の前髪をサッと分けてくれた。その行為がなんだかとても嬉しくて、杏寿郎さんの瞳をジッと見つめてしまう。
けれどもふと、露わになっていない方…眼帯で覆われている方の目がこんな状況にも関わらず
…どうして…外さないんだろう…
杏寿郎さんの目を隠していることが気になってしまった。
しずこさんと倫太郎さんのお店まで迎えにきてくれた時から今まで、杏寿郎さんは私の前で一度たりともそれを外していない。初めは特にこそまで気にしていなかったのだが、風呂から出た後も、そして布団に入る時まで外さないのは明らかにおかしい。
私は果てを迎え、重くなった腕をグッと伸ばし
「…これ…邪魔じゃない?」
杏寿郎さんの左目を覆っている黒い眼帯に手を伸ばした。そんな私の行動に
「…っ!」
杏寿郎さんは珍しく戸惑ったような反応を見せた。
…やっぱり…意図的に外さないようにしてるんだ
私はそのまま腕を伸ばし続け、杏寿郎さんの眼帯を中指の腹で撫でた。
「どうして…外さないんですか?」
先程の問いよりも直接的なそれに
「…特に…理由はない」
杏寿郎さんは私から視線を逸らしながらそう答えた。
「…そんな嘘、私にはお見通しです。言いたくないなら無理には聞きません…でも…もし私に気を遣っているのであれば、そんな必要は少しもありませんからね?」
上弦の参との戦いから随分と時は経っているのだが、その間私は一度たりとも杏寿郎さんの潰されてしまった左目を見たことがなかった。