第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
杏寿郎さんは
「…んやっ!」
温かくて柔らかな唇を私の左耳に触れてしまいそうになる位まで寄せ
「身体を交えた方が、よく寝れるやもしれない」
まだあまり聞こえていないはずの耳の奥…それから下腹部に響いて来るような甘く吐息混じりの声で囁いてきた。
そんなの絶対に嘘だ!
そう思った私は断固拒否の意を示そうと、浴衣の合わせ目を両手でギュッと固く閉じた。
「…っ…駄目です…!…明日は…っ…お館様のところに…ん…行くんだから…!」
「何故それが駄目の理由になるのか俺には理解できない」
「…っんやぁ…!」
ちゅるりと熱い舌に耳の縁を舐められ、私の口からは大きめの喘ぎ声が漏れてしまう。
…やだやだ…恥ずかしい…!
あられもない自分の声がどうにも恥ずかしく、私は合わせ目を閉じていた手を口に移動させた。
「…ん…ふぅ…」
ピチャピチャとわざとらしく立てられる水音に、恥ずかしさとゾワゾワとした気持ちよさが同時に押し寄せて来る。
「っんぅ!」
杏寿郎さんは最後に私の耳たぶに軽く歯を立てた後
「あまり無理はさせないと約束する。だから俺を受け入れてほしい」
そう言いながら合わせ目を閉じている手に杏寿郎さんのそれを重ねてきた。
「…っ…で…でも…」
まだ杏寿郎さんとの行為に慣れていない私は、決して嫌なわけではないものの、羞恥心の方が優ってしまいすぐには首を縦に触れなかった。
「君は宇髄と秘薬の調合法を探しに出てしまうだろう?それが終われば今度は任務も始まる。そうなれば、こうして同じ布団で寝られる機会もグッと減ってしまう」
「…っ…それは…そうですけど…」
完全に左耳が治らなくとも、任務に支障がない程度まで回復すれば、私はすぐにでも任務に復帰するつもりである。だから杏寿郎さんの言うことは十分理解できるし、こうして共に夜を迎える機会が減ってしまうのは私自身も寂しい。