第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
その視線は昔を懐かしむようにも、憂いているようにも見え
「……どうかしましたか?」
思わずそう尋ねてしまう。
そんな私の問いに、杏寿郎さんはフッ優しげな笑みを浮かべると
「昔の出来事を思い出してな。少し感傷的になっていた。全く俺らしくないな!」
私を心配させまいとしているのか、そんなことを言ってきた。
「…らしくないなんてこと…ありません」
私はそう言いながら、今度は顔だけでなく身体全体の向きを変え、杏寿郎さんと正面から向き合う。
「何があったか…私は知りません。でも、杏寿郎さんは人の痛みや弱さと寄り添える強くて優しい人です。今までは、柱としてそういった部分を人に見せないようにしてきたかもしれないけど…私の前では…私の前だけでは…感傷的にも…感情的にも…なって下さい」
そんな私の言葉を、杏寿郎さんはただでさえ大きな目をこれでもかと言うほど見開きながら聞いていた。
そんな様子に、自分がなにやらとてつもなく恥ずかしいことを口走ってしまった気がして
「…っ…あ…あの…今の…忘れてください…」
口ごもり、視線を右往左往させながら慌ててしまう。そんな私に
「無理だな」
杏寿郎さんはきっぱりとそう言い切った。そして
「ほら!早くそれをさしてしまいなさい!難しければ俺がしてあげよう!」
薬を持っている私の手首をガシッと掴んできた。
「…っいいです!こんなの自分で出来ますから!」
私がそう断ると
「む?そうか?ならばいいのだが」
意外にも杏寿郎さんはあっさりと引き下がっていった。そんな様子に
…絶対に、"遠慮することはない!"…とか言って来ると思ってたんだけど
僅かに寂しさのようなものを覚えてしまった私は、間違いなく一般的な感覚から逸れ始めているのだろう。
「布団で待っている!済ませて早くきなさい」
「…わかりました」
明日はお館様の所に行かなきゃならないし、早く寝たいんだろうな
そう思った私は杏寿郎さんに言われた通り手早く薬をさすと、再びそれを鞄にしまった。