第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
間の開いた返事が気になるところではあったが、明日お館様の元へ訪問することが決まっているのであれば今日は早めに寝た方がいいだろう。
「それじゃあ、お言葉に甘えて湯をいただいてきます」
「うむ!耳の傷に障るやもしれん!あまり長湯をしないように!」
「わかってます」
最後にそんなやり取りを交わし、私は杏寿郎さんが湧かしてくれた湯につからせてもらう為湯殿へと向かった。
ポンポンと髪を拭きながら台所に戻ると、片付けはすっかりと終わっており、杏寿郎さんの姿はそこになかった。すぐ隣にある居間を覗いてみても、やはり杏寿郎さんの姿はない。
…杏寿郎さん…どこに行ったんだろう?
気配を探ればすぐに見つけられはするのだが、調査や戦いの場以外で気配を探るのも、聴く耳を敢えて使おうとも思えない。
先にお布団に行ったのかな?
台所にも居間にもいない。湯浴み後のこんな時間に鍛錬場にいるとも思えないので、やはり残るは私と杏寿郎さんがこれから寝る部屋、つまり杏寿郎さんの部屋だろう。
私はそのまま寝ることになってしまっても問題ないように、寝支度を全て整えてから杏寿郎さんの部屋へと向かうことにした。
あ、やっぱり部屋にいる
ゴソゴソと部屋から聞こえて来る音で、中を覗かなくとも私の探し人である杏寿郎さんがそこにいることははっきりとわかった。
サッ
と静かに襖を開けると、部屋にある座卓の前に腰掛け何かを書いている杏寿郎さんの姿が目に飛び込んできた。
「お仕事ですか?」
「いいや。文を書いていた」
「そうですか」
あまり余計なことは聞かない方がいいだろうと話を早々に切り上げ、杏寿郎さんが敷いてくれたと思われる布団へと真っ直ぐ向かった。
布団は人数分、つまりは私と杏寿郎さん用に2組敷いてはあるのだが、昨日と同様形だけ2組敷いてあるだけで、杏寿郎さんは間違いなく私の方に侵入して来るか、もしくは私を自分側に招き入れるに違いない。