第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
私がいない間は今まで通り隠の方に手伝いに来てもらったらどうかと提案したのだが、杏寿郎さんは
”いいや!今後の為に、2人で協力しやっていくのはいい予行練習になる!炊事に関しては君に頼り切りなってしまうが、他のことは俺一人で出来るようにならねば君の負担が増えてしまうだろう”
ごく当たり前のことだと言わんばかりにそう言ってくれた。この時代、男性がそんなにも積極的に家事に参加してくれることなど稀だろう。けれども、ほとんど一人で家のことをやっていた千寿郎さんを近くで見てきた杏寿郎さんにとって、”男だから”だとか”女だから”という概念はないのだろう。
それでいて”男は自分よりもか弱い女性を守らねばならない”というような姿勢も持ち合わせているのだから、たくさんの人(主に女性)が杏寿郎さんに心惹かれてしまうのは当然の結果だ。
本当…私には勿体なさすぎる人だよ
そんなことを考えながらお皿を拭き始めた杏寿郎さんを見ていると
「む?どうかしたか?」
僅かに見開かれた杏寿郎さんの隻眼と目が合った。正直に”私には杏寿郎さんみたいな人は勿体ない”などと言ってしまえば
俺の気持ちがまだ伝わってないようだな!
などと言われ、何をされるかわかったもんじゃない。
「…なんでもありません」
「そうか」
お皿を拭くのに集中しているのか、杏寿郎さんは幸いそれ以上何か聞いて来ることはなく、拭き終わったお皿を流し台の横に置いた。それから拭いていないお皿をもう一枚手に取ると
「言い忘れていたが散歩に出ていた際、宇髄から文が来た。お館様の体調があまり思わしくないようでな。急だが明日、屋敷を訪問させてもらう運びとなった」
真剣な面持ちでそう言ってきた。
…明日…随分急だな…
そう思いはしたものの、今後どのような計画で事を進めるか、決めるのは早い方が良い。お館様の体調が悪いのであれば尚のことだ。
「わかりました。明日はしのぶさんも任務でいないと言っていたので丁度よかったです」
「そうなのか?毎日診てもらわなくて大丈夫なのか?」
「はい。今日の明日で薬の効果は出ないので、3日後にまた来てくださいと言われました」
「……そうか」