第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
「…っ…ありがとう…ございます!」
私は、お父様に受け入れてもらえた安心感で溢れて来そうになる涙を堪えるのに必死だった。
そんな私に
「ですが一つだけお願いがあります」
お父様は、酷く真剣な表情を浮かべながらそう言った。
「…っお願い…ですか?」
お父様から私へ何をお願いする事があるのか。これと言ったものが浮かんで来ず、困惑してしまった。
お父様は私を見ていた視線を一度下げ、何かを思案するような素振りを見せた後
「…決して杏寿郎を置いて…死なないで欲しい」
「…っ!」
力強く、なのにどこか切なさを孕んだ瞳で私のことをじっと見て来た。
「妻に先立たれた俺としては…出来ることなら鈴音さんには今すぐ鬼殺隊を辞め、杏寿郎の妻になって欲しいと思っています」
お父様がどんな気持ちで私にそう言っているのか…"愛する家族"を持ったことのない私には、想像する事が難しい。それでも、もしじぃちゃんを、善逸を、天元さんを、雛鶴さんまきをさん須磨さんを亡くすようなことがあれば…そう置き換えてみると、そんなのは想像すらしたくないと思ってしまう。
それでも
"杏寿郎さんの為に鬼殺隊を辞める"
という選択肢を選ぶことは出来ない。そう出来るほど、私はまだ何かを成し得てはいない。
「…っ…あの…私…」
何と言っていいか分からず、口籠ってしまった私に
「だがそうも行かないことを、元隊士であり、柱を務めていた身としては理解しています」
お父様は、私を落ち着かせるような穏やかな声色でそう言った。
「確か鈴音さんは、杏寿郎に"生きて家族の元に帰れ"と…言ったんでしたね?」
「…確かに…上弦ノ参と戦った時…そんな感じのことを言ったような気もします…」
正直に言うと、あの時自分が杏寿郎さんに何を言ったのか…はっきりとは覚えていない。それほどあの時の私は必死だった。