第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
千寿郎くんの言葉が心に響いたのは私だけではなかったようで
「千寿郎。話してくれてありがとう」
杏寿郎さんは酷く優しい笑みを浮かべながら、千寿郎くんの肩にポンと手を置いた。
そして
「では、10分ほどしたら戻ります!」
杏寿郎さんは千寿郎さんの肩に触れたままそう言うと、部屋の外へと出て行った。そんな杏寿郎さんの行動に
「10分しか待てんとは…本当にせっかちな奴だ」
お父様は若干げんなりとした表情を浮かべそう言った。そしてその後、杏寿郎さんと千寿郎くんが出て行った襖の方から、私へと視線を移した。
「手短に済ませてしまいましょう」
「…はい」
心を落ち着かせるようにゆっくりとまばたきを1度する。それからお父様の顔を真っすぐ見据えた。
「私は、杏寿郎さんのことが好きです。もちろんそれは上官として…ではなく、一人の男の人として…です」
「……」
私のその言葉に、お父様は何も言葉を返してはくれない。
…大丈夫…頑張るのよ…私
「煉獄家という代々続く名家の嫡男である杏寿郎さんにとって…私のような身寄りのない…ましてや鬼殺の道に身を置く人間が相応しくないことは重々理解しています。…理解していたはずなのに…私は、杏寿郎さんを恋い慕う気持ちを…止めることが出来ませんでした。申し訳ありません」
上ずりそうになる声を懸命に抑え、私は自分の胸の内をお父様に正直に話し続ける。
「…杏寿郎さんを悲しませるようなことは絶対にしないとお父様に誓います。ですから…どうか…杏寿郎さんの側にいることを…お許しいただけないでしょうか…!」
正面にある杏寿郎さんと同じ色をした視線から逃げ出したい程の視線を感じ、結局最後の方は声が震えてしまった。
「……」
「……」
しばらくの沈黙が続いた後
「鈴音さんのお気持ちはよくわかりました。では今度は、私の話を聞いてもらってもいいでしょうか?」
お父様は。僅かに表情を緩めながら言った。まだ私がしたお願いの答えをもらえておらず、心に不安は残ったままだ。
「……はい」
それでも、そう答えるしかほかなく、私はお父様の言葉に耳を傾けた。