第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
けれども
「あの…出る前に、俺にも少し…話をさせてもらえませんか?」
弟さんはそう言いながらクルリと振り返り、私とお父様に不安げながらも視線を寄越してきた。
「どうした?」
お父様のその問いかけに、弟さんはちらりと杏寿郎さんの顔を見た後、再びお父様…そして私の顔をジッと見つめその口を開いた。
「俺は以前、街で鈴音さんに助けてもらったことがあります」
「む?そうなのか?それは初耳だ!」
「俺も、今日鈴音さんとこうしてお会いするまで、あの時俺を助けてくれた女性と、兄上の話してくれる鈴音さんが同じ人だとは思っていませんでした」
「鈴音は千寿郎が俺の弟だと気がついていたのだろう?」
「…それは…まぁ…気がついてはいましたけど」
これだけ身体的特徴が似ていて、兄弟だと思わないほうが珍しいだろう。
「あの時は…まだ杏寿郎さんと親しいわけでもなかったので…わざわざ名乗る必要もないと思ったんです」
「成る程」
杏寿郎さんは身体の前で腕を組み、弟さんの顔を見ながら頷いた。そんな杏寿郎さんに
「杏寿郎。あまり千寿郎の話の腰を折るんじゃない」
お父様は、眉間に皺を寄せながらそう言った。
「すみません!鈴音の事となるとつい口を挟みたくなってしまい…千寿郎、すまない」
「いいえ!あの…俺が言いたかったのは…」
弟さん…千寿郎さんは私の顔をチラリと見た後、お父様の方にそれを移し
「俺は、兄上から聞いていた女性が、あの時俺を助けてくれた方だとわかり、とても嬉しかったです!兄上が選んだお相手が、鈴音さんのような強くて優しい方だとわかり、とても…とても嬉しかったんです!」
今日聞いた千寿郎さんの声の中でも、1番大きなそれでそんな事を言ってくれた。
まさかそんな風に言ってもらえるなどとは思っておらず
「…っ…千寿郎くん…」
嬉しさで、胸の奥がじんわりと温かくなった。