第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
「その通り。可能な限り俺の手の届く場所にいて欲しいと君に願ったのは俺だ。そのように謝ったりしないで欲しい」
”少しでも多く杏寿郎さんと一緒にいたい”
杏寿郎さんがそう思ってくれたように、私も自分の欲求に従い、杏寿郎さんの提案を受け入れたのは紛れもない事実。本来であれば、杏寿郎さんは良家出身の女性と結ばれ、その人に代々続く煉獄家の跡取りを産んでもらうべき人だ。それが代々続く名家の嫡男の義務とも言えよう。
それを、"私"という存在が邪魔をしている事は明白だ。煉獄家のことを思えば、身寄りもなく、いつ死ぬかわからない鬼殺隊という組織に身を置く私は身を引くべきである。
でも私は、それをわかっていながら杏寿郎さんを受け入れ、その隣にいることを選んだ。
その許しを、杏寿郎さんのお父様にお会いした暁には得たい…と、ずっと考えていた。
…この話は…お父様と二人でしなきゃ
話の流れを考えれば、今その話を切り出してもおかしくはない。けれどもこの場にはまだ杏寿郎さんと弟さんがいる。
私は隣にある杏寿郎さんの顔を見据えると
「杏寿郎さん。先程お願いした通り、この先の話は、お父様と2人でさせてもらいたいんです。だから…一旦席を外してもらえますか?」
そうお願いをした。
杏寿郎さんは珍しく口を真一文字に閉じ
「……わかった」
感情を抑えるような声でそう言った。
「ありがとうございます。…大丈夫です。私は、もう杏寿郎さんから逃げるようなことも…裏切るようなことも絶対しません。それをしないために…お父様ときちんと話をしたいんです」
私はそう言いながら座卓の下でこっそりと杏寿郎さんの手に自らの手を重ねた。
杏寿郎さんはそんな私の行動に、困ったような、それでいれ嬉しそうな表情を浮かべ
「……うむ」
静かな声でそう言った。そして
「千寿郎。兄と少し散歩にでも行こう」
弟さんにそう声を掛けた。弟さんはその言葉に
「はい」
そう答え立ち上がると、同じく立ち上がった杏寿郎さんと共に部屋の外へと向かって行った。