第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
よかったね…杏寿郎さん
本人には決して言えないそんな言葉を心の中でつぶやいた私は
「失礼します」
襖のむこうにいる3人に声を掛け、ゆっくりとそれを開く。そして中に足を踏み入れようとしたその時
パッ
と、6つの瞳が私に向けられた。
夕陽のような色を持ち、目尻の吊り上がった猛禽類のようにぎょろりとした瞳がふたつ。
その隣に、同じ色を持ち、瞳の大きさも目尻の吊り上がり方も似ているが、杏寿郎さんの吊り上がった眉とは異なる垂れ下がりがちな眉のおかげで優しい印象の、これまた猛禽類のような瞳がふたつ。
その更に隣に、やはり同じ色を持ち合わせているが、先に述べた2人よりも三白眼がちで、どちらかと言えば他の二人とは異なる鋭さをもつ瞳がふたつ(瞳の雰囲気は異なるが、その上に位置する眉は色も形もそっくりだ)。
…目の形は…お母さま譲りなのかもしれないな
そんなことを考えながら
「失礼します」
と一声かけ、3人の反対側に腰かけた。
私が腰かけたのを確認した杏寿郎さんは、スッと立ち上がり、当たり前のように私の隣に移動してきた。そんな杏寿郎さんの行動を見たお父様は、ものすごく呆れた表情をしており、私の顔にも苦笑いが浮かんでしまう。
私は、杏寿郎さんに向けていた顔を正面に向け
「改めまして…音柱宇髄天元の弟子をしております、雷の呼吸、並びに響の呼吸の使い手、荒山鈴音と申します。縁あって、杏寿郎さんの邸に住まわせていただくことになりました。…事後報告になってしまい申し訳ございません」
自己紹介、そして婚前にも関わらず、杏寿郎さんの邸に身を置かせてもらうことに対する謝罪の言葉を述べた。
「鈴音さん。あなたが謝る必要はありません。聞けばうちの杏寿郎が、半ば無理矢理この家に招き入れたようじゃないか」
お父様はそう言いながら杏寿郎さんの方に、さも呆れたと言わんばかりの視線を寄越した。