第1章 始まりの雷鳴
「…本気です」
道中、桑島さんの話を聞きながらずっと考えていた。もしかしたら"鬼殺隊"が私が生きるべき、そして死ぬべき場所じゃないのかと。
「隊士になり鬼と戦うということは、すなわち鬼が滅びるその日まで戦い続けなければいけないということじゃ。お前さんのように小柄で、非力な年頃の娘が進んで選ぶ道じゃあない。一人で生きるすべを身に着けるまでわしが面倒を見てやろう。そしてそれができるようになった暁には、お前さんは自分の手で普通の幸せを探せばいいんじゃ」
桑島さんはそう言って、私の目をじっと見据える。
「…普通の幸せって…なんですか?」
私のその問いに、桑島さんは眉をピクリと微かに動かした。
「どこかの男と結ばれて子を産んで家族になることですか?」
「…そうじゃな。わしはそれが普通の幸せじゃと思っておる」
桑島さんのその言葉に、私の膝に置かれていた掌に自然と力が入る。
「…私はそうは思いません。……思えません」
俯き小声でそう呟く私に
「何か事情があるんじゃな?」
桑島さんがそう静かに尋ねる。
「少し…長くなってしまうのですが、私の話を聞いてもらえますか?」
桑島さんは私の言葉にコクリと一度頷いた。
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私の母は、夫の事、つまり私の父のことを心から愛していた。父に人生のすべてを捧げ、父のために生きていたと言っても過言ではない。そんな父を愛する母を、私は子どもながらにかわいらしく素敵だと思っていた。
けれども父は、母が父を愛しているほど、母のことを愛してはいなかった。父は外で母以外の女を作り、あからさまにほかの女の気配をまとったまま家に帰ってくるようになった。
それでも母は最期には自分のところに帰って来てくれるはずと信じ、健気に、盲目的と言えるほどに父を愛し続けた。
いつしかそんな母が鬱陶しくなった父は、母に暴力を振るうようになった。外で作った女性と喧嘩でもしたとき、仕事が上手くいかないとき、ただただ機嫌が悪いとき、父は母を殴り、蹴り、大声で暴言を吐いた。
なぜそんな酷い仕打ちが出来るのか、私には全く理解できなかった。そして、それでも父を愛する母の気持ちも、同じように理解できなかった。