第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
「…随分と顔が赤いように見えるが…疲れて発熱でもしてしまったのか?」
私の顔を見るなり心配げに眉の端を下げた杏寿郎さんは、そんなことを言いながら私のおでこに左手のひらを当ててきた。
…熱なんか…ないし…あなたのせいで…顔面が燃えそうな程恥ずかしいだけなんですけど…
そう心の中で思いながらも、やはり口に出すことは出来ず、それでも何とか目で訴えようと杏寿郎さんを半ば睨みつけるようにジッと見た。
すると
「…そのような赤い顔をしながらジッと見られると…俺としてはいささか困ってしまうのだが」
杏寿郎さんは僅かに目の色を変えながらそう言った。その発言に
「…っ…もういい加減にしてください!」
私の怒りと羞恥の感情が、”杏寿郎さんのお父様と弟さんの前だから”という気持ちを超えた。
杏寿郎さんは具合が悪いと思っていた私が突然怒鳴りだしたことに驚いているのか、きょとんとしながら私の顔を見ている。
一度口に出してしまえばそう簡単には止まってくれず
「なんなんですさっきから…余計なことをべらべらと!お父様と弟さんの前で恥かしい事を言わないで下さい!あんな話をして、お父様と弟さんが私に変な印象を抱いてしまったらどうするんです!?」
我慢していた杏寿郎さんへの文句の言葉が次々と溢れてくる。そんな私の言葉に杏寿郎さんは僅かに首を傾げ
「何故先程の言葉で父上と千寿郎が君に変な印象を抱くんだ?俺には全くわからん」
言葉の通りとても不思議そうな顔をしながらそう言った。あまりに話の通じない杏寿郎さんの様子に、私は久々に眩暈を覚え右側の米神にそっと手を添えた。その行動が悪かったのだろう。
「大丈夫か?やはり朝稽古に家事、それから診察に宇髄の訓練と疲れてしまったか?今日の夕餉は千寿郎が作ると言ってくれている故君は少し休むといい」
杏寿郎さんはそう言うや否や
「…ちょ…何するんですか!?」
私の身体を横抱きにした。何とか離してもらおうとじたばた暴れてみるも、杏寿郎さんには私の拙い抵抗など全く通じないようで
「それでは!一旦失礼します!」
杏寿郎さんはお父様と弟さんに会釈をし、私を抱いたまま部屋に上がろうとしている。