第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
もしこの場に杏寿郎さんと2人きりであれば
"恥ずかしいのでやめてください!"
やら
"いい加減にして下さい!"
などと言えるのだが、あいにくこの場には杏寿郎さんのお父様と弟さんがいる。なので
お願いお願い!杏寿郎さん…もうその口を閉じて…!
心の中でそう念じる事しか出来ない。
当然私のそんな願いは杏寿郎さんに届くことはなく
「彼女をこうして父上と千寿郎に直接紹介出来る日が来た事が俺は嬉しくて堪らない!どうです!?俺が話した通り、ちょっと意地っ張りな所はあるがとても可愛らしいでしょう?俺はもう彼女以外と添い遂げる事など考えられないのです!」
「…っ…!!!」
言わなくてもいい事をベラベラと喋り続け、最終的にはお父様の前で"添い遂げたい"などと言ってのけてしまった。
杏寿郎さんのそれらの言葉が嬉しくないわけじゃない。馬鹿がつくほどにその愛を正直に表現してくれることは、何かと後ろ向きな考えをしがちな私にとってはとてもありがたい事である。けれども
…今…それを言う必要ある…!?お願いだから…もうやめて…!
果たしてそれは、お父様と弟さんの前で言う必要がある言葉なのだろうか。羞恥心で顔から火が出そうだったが、私の背後に陣取っている杏寿郎さんには私の真っ赤に染まっている顔は見えないだろう。
「……杏寿郎」
「はい!何でしょう!」
「お前の気持ちはよくわかった。わかったから…その辺にしてやりなさい」
「む!だが俺はまだ彼女の魅力を伝えきれていない!彼女の素敵なところはまだまだたくさんあるのです!」
「わかった。お前がいかに鈴音さんのことを好いているか、俺も千寿郎も…もう十分過ぎるほどわかった」
「ですが…」
「ですがじゃない。それ以上は…鈴音さんが居た堪れない」
「と、言いますと?」
「お前…鈴音さんの顔を見てみろ」
お父様のその言葉に、杏寿郎さんは"む?"と言いながら私の顔を覗き込んできた。