第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
杏寿郎さんは私の右肩に置いてある左手をそのままに、右手でポリポリと照れ隠しをするように側頭部を掻き始め
「わはは!鈴音がきちんと俺のもとに戻って来てくれたのがとても嬉しく、柄にもなくはしゃいでしまったようです!恥ずかしい姿をお見せし不甲斐ない!」
”不甲斐ない”という言葉とは異なる、酷く楽しげな表情を浮かべそう言った。
いやいやいや…何楽しそうに笑ってるわけ?お願いだから…なんでこんな状況になってるのか説明してよ!
そんな気持ちを視線に込め、私が出し得る全力の目力を持って杏寿郎さんのそれをジッと見た。
なのにだ。
杏寿郎さんはそんな私の目力を物ともせず、ニコリと嬉しそうに微笑み返してくると(悔しいかなその笑顔はとても素敵で私の心はこんな状況下にも関わらず僅かに甘い音を立ててしまった)(誰よ杏寿郎さんが人の感情の機微に敏感だって言ったの)
「既に鈴音の話はたくさんしているが、こうして直接顔を合わせるのは初めてだからな!改めて父上と千寿郎に紹介しよう!」
杏寿郎さんは先ほどそうしたのと同じように私の身体を再び回転させ、杏寿郎さんのお父様と弟さんの方に正面を向かされる。
「彼女こそが、念願叶いようやく結ばれた俺の恋慕う相手、荒山鈴音です!」
「……」
赤面し何も言えない私。
「……」
"呆れてものも言えない"と言わんばかりの杏寿郎さんのお父様。
「そ…そうですか…」
顔を赤くしながらも、何の反応も示さない私とお父様の様子を見て、自分は何か言わないと…と、思ったのか、なんとかそれだけ言った弟さん。
明らかに微妙な空気が漂っているのにも関わらず
「彼女はこう見えてとても強いのです!宇髄の厳しい稽古に耐え、戦いに不利になり得る小さな身体を活かし、俺の命を2度も救ってくれた素晴らしい実力の持ち主です!」
杏寿郎さんはそんな空気はどこ吹く風と言わんばかりに私の身を差し出すようにしながら話し続ける。