第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
慌てて顔を上げ、杏寿郎さんのお父様の顔を見ると
「…っ…」
真剣な、けれどもどこか困ったような表情で私のことを見ていた。その表情に
…あ…やっぱり…私じゃだめなのかな…
そんな不安が心の奥から湧き上がって来る。
杏寿郎さんは、お父様は私と杏寿郎さんとの関係を認めてくれていると言っていた。けれどもそれは杏寿郎さんから見たお父様の反応であり、お父様の本心では、身寄りのない現役の鬼殺隊士より、両家の娘と関係を結んで欲しいと思っているのかもしれない。
私には、恋い慕う相手のお父様に心の中でそんなことを思われながらその人の側にいられるほどの心の強さも、そして自信もない。
もし万が一お父様に
”息子と別れて欲しい”
と言われるようなことがあれば、私はきっと首を縦に振ってしまう。
「…あ…あの…私…」
後ずさりしようと、左足の踵を上げたその時
「鈴音!戻っていたのか!」
「…ひっ…!」
背後から突然杏寿郎さんの大きな声が聞こえ、私はビクリと肩を上下させるだけでは飽き足らず、口からは変な声を漏らしてしまった。
杏寿郎さんはそんな私の身体の向きをグルリと回転させると
「胡蝶の診察はどうだった?久方ぶりの宇髄の鍛錬も大変だったろう?疲れてはいないか?む?なにやら不安げな顔をしているように見えるが…何かあったか?」
私の両肩をがっしりと掴み、ジッと私の目をのぞき込みながら矢継ぎ早に質問を投げかけて来た。
「…あ…っ…え…」
あまりの杏寿郎さんの勢いと、現在自分の背後にいる杏寿郎さんのお父様と弟さんの存在に、私の頭は機能停止の一歩手前だ。
投げかけられた杏寿郎さんの質問にも何一つ答えることが出来ず、パクパクと口を動かし、意味のない言葉を発することしか出来ない。
そんな混乱状態の私を救ってくれたのは
「杏寿郎。鈴音さんが困っているだろう。少しは落ち着きなさい」
意外にも、お父様だった。