第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
蝶屋敷を後にした私は、そのまま音柱邸へと向かい、雛鶴さんまきをさん須磨さんから感覚を重視するような稽古をつけてもらった。
天元さんは事前調査で忙しいらしく、帰り際に
"まだお館様から連絡来てねぇんだわ。来たらすぐ鴉飛ばすから今日はもう帰れ"
と、少しの会話を交わしただけで、その日は直接稽古をつけてもらえなかった。もちろん今の天元さんにとって…いや鬼殺隊にとって1番重要なのは、忍の秘薬の調合方を手に入れる事だ。だから天元さんに稽古をつけてもらえずとも、不満に思ったりはしない。
本当はもう少し雛鶴さんまきをさん須磨さんと話をしたかった私だが、恐らく天元さんの手伝いをしなくてはならないだろうし、天元さんからあんな話をされた手前、あまり4人の時間を邪魔してしまうのも気が引けた。なので私は
"わかりました。また明日、よろしくお願いします"
天元さんの言葉に従い、杏寿郎さんの邸に帰ることにした。
音柱邸の門を出た私は
「和ぃ!」
いつも通り、和がとまり易いように腕をあげ、音柱邸の庭木にとまっていた和を呼び寄せた。
「は〜い」
和はいつもの調子で、いつもの通り私の肩にとまった。それからスリスリと甘えるように私の頬にその丸くて小さな頭を寄せてくる。私はそんな和の背中を優しく撫で
「先に杏寿郎さんのところまで飛んで、"今から帰る"って伝えてくれる?」
とお願いをした。私は
"わかったの〜"
なんていつもの気の抜けたような返事が来ると思っていたのだが
「…え…?」
和は、不安げな表情(鴉なのだから不安げも何もないのだが、少なくとも私にはそんな風に見えた)を浮かべ、私に擦り寄って来るのもやめてしまう。
そんな反応に
…どうしたんだろう…?
と首を傾げていると
「…鈴音、後からちゃんと来るよね?」
和にそんな事を聞かれてしまった。
…そうか…そうだよね。私この間、同じようなお願いを和にして…そのままいなくなったんだった…
和の反応に、私は自分がいかに和に酷い事をしてしまったかを改めて実感させられた。