第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
「私、ここまで誰かに興味を持った事は久しぶりでして」
胡蝶様はそう言った後、僅かに表情を曇らせたように見えたが、またすぐ元の表情に戻り
「たまには自分の気持ちに素直に従ってみるのもいいなと思ったんです」
私に身体の正面を向けてきた。
「…自分の…気持ち…」
「はい」
「…いまいち…胡蝶様の言ってる意味がわからないんですけど…」
「そうでしょうか?まぁとにかく、私はもっと鈴音さんと親しくなってみたいと思ってしまいまして。今後私の事は、"胡蝶様"と呼ばず名前で呼んでください」
綺麗な笑顔を浮かべながら私にそう言ってきた胡蝶様は、有無を言わさない雰囲気を有していた。そしてそれ以上に
胡蝶様本人がそう言ってくれるんだもん…これから耳の治療でたくさんお世話になるし、後回しにしてた毒を分けてもらうこともお願いしたいし…何より私も…胡蝶様ともっと仲良くなってみたいな…
機能回復訓練、耳の治療、そして栗花落様の一件を経て、私自身も胡蝶様ともっと親しくなりたいと思うようになっていた。
私はゴクリと唾を飲み込み
「…しのぶさん…」
"胡蝶様"ではなく"しのぶさん"と初めて呼んでみる。そんな私に
「…っふふ。そんなに恥ずかしがらなくても…私は煉獄さんじゃありませんよ?」
胡蝶様…もとい、しのぶさんは楽しげにそう言った。
「…っもう!そんなのわかってますから!あんまり揶揄わないでください!」
「ふふふっ。本当に可愛らしい方です。煉獄さんの言っていた事はやはり本当でした」
「やだもう!それ以上言うと…お、怒っちゃいますからね!」
「あらあら。まるで子どものような事を言うんですね。今の、今度煉獄さんに会った時に教えてあげないと」
「っだめですだめです!もう…っしのぶさんやめて!」
「…ふふっ…わかりましたよ。今日はこの辺でやめておきましょう」
楽しそうな胡蝶様に反し
…もう…勘弁してよぉ…
困惑気味な私ではあったが
…でも…ちょっと…うぅん、凄く嬉しいかも
それ以上に嬉しさの方が勝ったのだった。