第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
「今日の診察は以上になります」
胡蝶様はそう言うと、手に持っていたペンを置いた。
「ありがとうございます」
私は胡蝶様からいただいた飲み薬と点耳薬を腰の鞄にしまい、胡蝶様に向けて頭をしっかりと下げる。
すると頭のてっぺんに物凄い視線を感じた。
…え…なに?…物凄く…見られてる気がする…
その視線の持ち主など1人しかあり得ない。
「…あの…なんでしょうか…?」
私は恐る恐る顔を上げ、胡蝶様に遠慮がちな視線を送った。視線を送った先にいた胡蝶様は、特段いつもと変わった様子はなく、私は思わず首を傾げてしまう。そして
「そろそろその堅苦しい感じ、やめてもらえませんか?」
ニッコリと、羨ましいほどに綺麗な笑みを浮かべそう言った。私は胡蝶様から言われた予想外の言葉に
「…え?」
目を見開き固まってしまう。私のその反応に
「そうそう。その感じ。私、かしこまった鈴音さんより、ちょっと気が抜けた鈴音さんの方が好きです」
胡蝶様はその綺麗な笑みをさらに深くした。
…かしこまってない…気が抜けた私がいい…?…なにそれどういうこと…っ…ていうか、柱である胡蝶様にそんな態度取ることなんて出来ないし…
「…っでも胡蝶様「その呼び方も、出来ればやめてもらいたいですね」…!」
私の言葉を遮った胡蝶様は、机の上に出ていたカルテやペンをしまいながら、私の方に顔を向けることなく言葉を続ける。
「私の記憶が正しければ、鈴音さんは私よりも歳がいくつか上だったと思うのですが…違いましたか?」
「…っそれは…そうですけど…胡蝶様は柱ですよ?階級が上の柱の方を気軽に呼んだり失礼な態度を取ることなんて…私には出来ません!」
顔の前で両手を振り、胡蝶様の提案を有難くもお断りしようと試みる。