第2章 脱兎の如く
先程の決意も虚しく、心が折れてしまいそうになったその時、
「天元様。こんなにかわいい子をいじめてはだめですよ」
スッと私を庇うように私と宇髄天元様の間に滑り込むように入ってきてくれたのは、
「…雛鶴」
つい先ほど、もみあう須磨さんとまきをさんを懸命に止めようとしていた雛鶴さんだった。
それに加え、
「そうですよぉ!あんまり虐めると、この間の黒猫みたいに走って逃げて行ってしまいますよ!」
私の左側に須磨さん、
「あれは天元様のせいっていうよりも、あんたがしつこく構いすぎたからでしょう」
右側にはまきをさんがいつの間にか立っていた。
…いつの間に…?
私は3人があの場から動いていたことに全く気が付いていなかった。
ぐるりと雛鶴さん、まきをさん、須磨さんを順番に見回し
「…もしかして…奥様達も…元忍…なんですか?」
高鳴る鼓動を懸命に抑えながら私はそう尋ねた。
「えぇそうよ」
そう言いながら、雛鶴さんが優しく微笑みながら私の方に振り返った。
「正式な隊士じゃないから、鬼の頸を切ることはできないけど、忍具を使えば、その辺の弱い隊士なんかよりは戦えるはずさ」
そういいながら挑戦的な笑みを浮かべるまきをさんに、
「あ、私はただのミソッカスなので、何の期待もしないで下さい」
私に横から抱き着く須磨さんに、私はなにやら”憧れ”のような気持ちを抱いた。
「…っあの!奥様方!」
私がそう声をかけると、3人とも不思議そうな顔を私に向け、続きの言葉を待ってくれているようだった。
「私に!その素晴らしい体裁きを伝授してください!私も気配を絶って、そんな風に足音も立てずに移動できるようになりたいんです!」
私がそうお願いをすると、3人は顔を見合わせ、その後同時に私の方に顔を向け
「いいわよ」
「いいよ」
「いいですよぉ」
とニッコリと微笑みながらそう言ってくれた。
「…っありがとうございます!」
私に向けられたその笑顔のお陰で、先ほど”やっぱり無理”なんて思った気持ちは、すっかりどこかへと消え去っていた。