第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
…こんな風に誰かにご飯を作ってあげるなんて…じぃちゃんのところで修行していた頃以来だなぁ…
音柱邸に身を置いていた頃は、手が空いている時に食事の下準備の手伝いまではしたことがあったが、基本的にはいつも雛鶴さんまきをさん須磨さんが作ったものを食べさせてもらっていた。だからこうして作ること、そして食べてもらうことは本当に久々のことだった。
初めての台所に有り合わせの食材で、果たして杏寿郎さんが気に入る食事が作れるのか不安ではあった。けれども、どんどん空になっていく皿の様子を見ると、どうやら杏寿郎さんの味覚に合う食事が作れたようで私はほっと肩をなで下ろした。
杏寿郎さんは
「ご馳走様でした!」
米粒ひとつ残すことなく、作ったもの全てを食べ尽くしてくれた。
…少しは残るかと思ったけど…綺麗さっぱりなくなっちゃった…
じぃちゃんの家で作っていた量…じぃちゃん、善逸、そして獪岳に私の4人分に匹敵する量は作ったつもりだ。なのに少しも残らなかったおかず達に、まさか足りなかったのではないかと途端に不安になる。けれども
「鈴音の手料理が食べられるのが嬉しくてつい食べすぎてしまった!胡蝶に調子に乗って食べすぎてはならないと言われているんだがな!」
そう言いながら腹に手を当て"わはは!"と笑う杏寿郎さんの言動に
…なんだ…良かった。…次からはもうちょっと控えめにつくろう
なんてことを思いながら空になった皿を片付け始める。すると杏寿郎さんも私に続き、持てなかった分の皿を持ってくれた。
「今までは隠の人が炊事や家事をしてくれていたんですよね?」
「うむ!掃除は自分でなんとかなったのだが、炊事の方は台所が滅茶苦茶になるだけで、米すらまともに炊くことが出来なくてな。千寿郎にどうしたものかと相談したところ、"兄上に台所仕事は向いていないのでしょう"と一蹴されてしまった!故に仕方なく来てもらっていた!」
「……そう…なんですね」
その話を聞いた私の心にパッと浮かんで来たのは
…隠って…やっぱり…女の人…だよね…?
醜い嫉妬心から生まれたそんな疑問だった。