第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
どうしたのだろうかと振り返り、隻眼と再び目が合うと
「…朝食は作ってもらえるのだろうか?」
「…朝食…?」
酷く真剣な表情をした杏寿郎さんにそう尋ねられた。
…え…あんな真剣な表情をしておいて…内容…それだけなの…?
感じたことのない愛おしさが胸の奥からこみ上げ
「…大したものは作れませんが、杏寿郎さんがお腹いっぱいになるようにたくさん作ってあげますよ」
出来うる限りの笑顔を杏寿郎さんへと向けた。すると
「……うむ!」
杏寿郎さんも満面の笑みを浮かべ
「では行ってくる!!!」
今日一番の大声でそう言うと、炎柱邸の門を勢いよく出て行った。
私は先ほどまで杏寿郎さんが立っていた場所を見つめ
「…いってらっしゃい」
杏寿郎さんを愛おしく思う気持ちをたくさん込め、一人呟くように言ったのだった。
「美味い!」
その大声に
「…っ…杏寿郎さん煩い!」
私は思わず右耳だけでなく、まだあまり聞こえていない左耳も手のひらで覆い塞いだ。杏寿郎さんは右手にお箸、左手に味噌汁の入った椀を持ったままの状態で
「おっとすまない。鈴音の味噌汁があまりに美味い故、声が大きくなってしまった!次からは気を付ける!」
ちっとも悪いと思っていなさそうな表情でそう言った。
「お願いします。いくら杏寿郎さんの大声に慣れてきたと言っても、そんな突然大声を出されると私の心の準備が間に合いません」
「承知した!」
杏寿郎さんはそう言うと、卵焼きにすっと箸を伸ばし
「美味い!」
先程よりは随分控えめなそれで言った。控えめにしてくれたとは言え、私からすれば煩いことには変わりないのだが、それ以上に自分の作った食事を美味い美味いと嬉しそうに食べてもらえる嬉しさの方が勝り、煩くてもまぁいいかと思えてしまうのだから、誰かを想い慕う気持ちとは不思議なものだ。