第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
すると杏寿郎さんは
「…杏寿郎さん…?」
がぁぁぁぁん
背後にそんな文字が見えてしまいそうな程の様子で激しく肩を落とした。私の頬に触れていた手も、だらりと力なく下がってしまい、そんな杏寿郎さんの様子に
「…ふっ…あははははは!」
私は笑いを堪えることが出来なかった。そんな私の反応に
「…っ!!!」
珍しいことに、杏寿郎さんは口元で手を覆い顔を赤らめていた。そのあまりの可愛らしい反応に、私はどうしても口元が緩んでしまうのを堪えることが出来ない。
杏寿郎さんは普段は吊り上がっている眉の端を垂れ下げ
「…あまりからかわないで貰いたいのだが」
私から視線を逸らしながらそう言った。
…あんな顔…初めて見た…なんて…なんてかわいいの!
そんな表情を見られるのが自分だけかもしれないと思うと、幸福感で胸が満たされていくようだった。
「…ふふっごめんなさい。でも、元をたどれば、杏寿郎さんが先に私をからかったんでしょう?」
「俺は別にからかったつもりなどない!」
「じゃあ私だって同じです」
「むぅ…」
「むぅじゃありません」
拗ねた表情をする杏寿郎さんもとても新鮮で
…一緒に暮らすと杏寿郎さんの色んな顔を見ることも出来るんだな…成り行きでこうなっちゃったけど…ここで杏寿郎さんと一緒に暮らせるようになってよかったかも
そんなことを考えながら、気合を入れるように自らの両頬を両手のひらでパンパンと叩いている杏寿郎さんの姿を見つめてしまう。
…と、あんまりのんびりしてると素振りの時間も朝ごはんを作る時間もなくなっちゃう
私は杏寿郎さんから歩幅一歩分離れ
「それじゃあ、私、鍛錬用の木刀を取ってくるのでこれで失礼します」
そう言うと、クルリと180度方向転換し、邸の玄関から中庭に向かおうと足を進めた。そんな私を
「待って欲しい!」
杏寿郎さんが呼び止めた。