第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
…せめて身体さばきくらいは負けたくないのに…悔しいな
そんなことを考えながら杏寿郎さんを恨めし気に見ていたが
「やはり鈴音の動きは無駄もなくしなやかで美しい。あのような動き、ただ普通の鍛錬を積むだけでは身につくまい」
と、杏寿郎さんが私を褒めるようなことを言ってくれたので、杏寿郎さんを恨めしく思っていた自分に恥ずかしさを覚えてしまう。
「…ありがとうございます」
以前の私であれば、卑屈になってその言葉を素直に受け止めることが出来なかったかもしれない。けれども、前よりも少し心が強くなった今の私なら、そして何より、その言葉をくれるのが杏寿郎さんであれば、私は言葉のままにそれを受け止めることが出来るようになってきた。
「うむ!次は素振りだったな!俺はもう少し体力づくりと筋肉作りの訓練を続けるとしよう」
「そうですか。私、早めに切り上げて朝食の準備をしてしまうので、終わったら来てください」
「あいわかった!」
杏寿郎さんはそう言った後、私の顔をじぃぃぃっと見つめてきた。その熱い視線に
「…っ…なんです?」
私は思わずたじろいでしまった。杏寿郎さんはそんな私に向けニコリと破顔しながらゆっくりと近づいてくる。そして
「まるで夫婦の会話のようだな」
そんなことを言いながら私の左頬にその大きな右手のひらで触れた。そんな杏寿郎さんの行動に
「…っちょ…汗!…汗かいてるので汚くて…触んないでください…!」
私の頬はカァァァっと急激に熱を帯びた。
「わはは!そんなことを気にするとは、君は可愛いな!」
「…っもう!からかわないで下さい!」
「可愛いものは可愛い!何も悪いことなどないだろう」
「…っ…恥ずかしいんですってば!あんまりそんなことを言っていると…朝ごはん作りませんからね!」
本当はそんなつもりなどないのだが、恥ずかしさを隠すため、私はそんなことを口走ってしまう。