第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
「なるほど。俺も山を走ることはあれど、坂道や足場の悪い道を選んで走るのみでそこまではしない。流石宇随だな」
隊服を手に持ったまま振り返ると、杏寿郎さんは顎に手を当て感心したようにうんうんと頷いていた。
「しかも枝はなるべく細いもので、それでも自重で折れないものにしろと限定されます」
「なるほど!判断力も求められると言うわけだ!もしそうじゃないものを選んだらどうなるんだ?」
そう尋ねてくる杏寿郎さんの顔は何やらわくわくしているように見え、少年のようなその表情に思わず笑みが零れそうになる。
「細めのやつを選んでしまえば自然と折れて体制を崩しますし、太めの枝を選んで足場にすると、後ろから追ってくる雛鶴さんまきをさん須磨さんにクナイで足場を即折られます。ごくまれに関係ないタイミングでクナイを投げられることもありました」
「よもやそんな訓練を日々していたのか!」
「はい。毎日交代で誰かしらに追いかけられながら走り込みをしていました」
「なるほど!だがもう追いかけてくれる相手はいなくなってしまったが…どうするんだ?」
「それは早朝稽古じゃない時にやってもらうので大丈夫です。体力と体捌きの訓練だけでもできれば十分です。この辺りの山は走ったことないですし」
もたもたしていると街の住人が目を覚ましてしまうと思い、私は手に持っていた隊服を一旦荷物の入った風呂敷の隣に置き、代わりに訓練着を手に取った。それから部屋の出口の方へと向かい
「ということで、私は街の屋根を移動しながら山に向かって、そこで走り込みをしてから戻って来ますので」
杏寿郎さんの方をクルリと振り返りながらそう言った。
「わかった!ではまた後程!」
「はい」
私は杏寿郎さんと眠っていた隣の部屋へと移動し、急いで訓練着に着替えるとそのまま玄関に向かった。