第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
"どうして私なんか"
その言葉が一瞬私の頭にパッと浮かんできた。けれどもすぐ
…違う。そういう風に考えるのはやめようって…決めたじゃない。そう思わなくて済むようにもっと強くなるって決めたじゃない…!
整え終えた合わせ目から手を離し、ギュッと拳を握り締め立ち上がった。
「それじゃあ、着替えを済ませて早速行ってきます!走り込みと素振りが終わったら朝食を作ろうと思ってるんですが、それで大丈夫ですか?」
「うむ!だがもし鈴音さえ良ければ一緒に走らないか?」
身なりを整えながらそう尋ねてきた杏寿郎さんに
「……え?」
私は明らかに"嫌"と悟られてしまいそうな口調でそう言ってしまう。私のその態度に
「む?何故そんな嫌そうな顔をする?」
杏寿郎さんは僅かに眉を顰めた。
「…いやあの…"嫌"…って訳じゃないんですけど…私が杏寿郎さんの体力についていけるとは思えないし…」
言い訳をするようにそう答えた私に
「そんな弱気でどうする!君には誰よりも強くなり、何があっても俺の元に帰ってきてもらわねば困るんだ!」
杏寿郎さんは腕を組み、じっと厳しい目線を私に寄越してきた。その様子は半分恋人、半分上官のそれで、思わず背筋をピンと伸ばしてしまう。
「…っそれはわかってます!でも…そもそも私が走る場所と、杏寿郎さんが走る場所は全然違うと思うので…私にとってはいいかもしれませんが、杏寿郎さんはあまりいい鍛錬にはならないと思うんです」
「走る場所が違う?どう言うことだ」
杏寿郎さんは首を傾げながらそう尋ねてきた。私は、昨晩音柱邸から帰る際に渡された隊服を自分の荷物の中から引っ張り出した。そして
「私が走るのは街の中であれば屋根の上。森の中であれば木の枝から枝や岩から岩…平坦な道は走りません」
…隊服…少し手放しただけなのに…なんだかとっても懐かしく見える
頭の片隅でそんなことを考えながら、私が何故杏寿郎さんにとってはいい鍛錬にならないと思うかを説明した。