第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
すると杏寿郎さんは私の顔をその胸元に埋めるようにぎゅっと抱き込み
「こうして同じ布団で眠り鈴音から"おはよう"が聞けるとは…夢のようだ」
私の頭頂部に顎を擦り付けるようにしながらそう言った。
「…っ杏寿郎さんは…大袈裟すぎです…」
照れ隠しでそんなことを言ってしまうも、心の中ではこんな穏やかな目覚めを迎えられたことが嬉しくてたまらなかった。
「起こしちゃってごめんなさい」
「いいや。君が目覚めるのとほぼ同時に俺も目が覚めた」
「そうなんですか?」
そう言いながら杏寿郎さんの胸元に埋められていた顔を杏寿郎さんの顔が見えるように上向きに動かす。
杏寿郎さんは相変わらず甘い瞳で私のことを見ており、この幸せな時間を終わらせてしまうのが、なんだか惜しいような気がしてきた。けれどもなんとか自分を奮い立たせ
「……私!走り込みと素振りをしなくてはならないので!先に布団を出ます!」
自らに言い聞かせるようにそう言った。
「そうか。君の温もりを離してしまうのは名残惜しいが、俺も昨日あまり出来なかった分いつもより多くせねばならない!」
そう言いながら私の身体に乗っていた左腕を離しバサリと勢いよく私と杏寿郎さんが包まっていた掛け布団を放った。私はゆっくりと起き上がり
「杏寿郎さん、今でも毎日早朝稽古をされているんですか?」
崩れてしまっていた服を整えながら私に続きゆったりと身を起こした杏寿郎さんにそう問いかけた。
「うむ!呼吸が使える範囲が狭まってしまった分、可能な限り基礎体力をあげねばならない!現役は退いたとはいえ、いつ何時でも戦いに行けるよう鍛え続けなければ指導者として示しがつかないからな」
「…そう…ですか」
…杏寿郎さんは…どうしてこんなにも強くて謙虚なんだろう…
こんな素敵な人に選ばれ、側においてもらえるなんて今でも信じられない気持ちだった。