第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
雛鶴さんの言葉を聞いた杏寿郎さんは
じぃぃぃぃ
と、何かを訴えかけてくるような顔で私のことを見て来た。その目が
"俺のことが好きか?"
と問いかけてきているような気がして、そのあまりにも熱い視線は
…2人きりだったら…好きって言っちゃってるかも…
と思ってしまうほどだった。けれども流石に雛鶴さんまきをさん須磨さんそして天元さんの前でそんなことが言えるはずもなく、ただ互いにじっと見つめ合っていた。
そんな私と杏寿郎さんに
「…お前ら…もうさっさと帰って家でイチャつけよ」
天元さんは酷く呆れ様子でそう言った。そんな天元さんの言葉に
「…っ…」
私は慌てて杏寿郎さんから視線を外したのだった。
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そんなこんなで私は杏寿郎さんの邸に身を置かせてもらうこととなり、杏寿郎さんの屋敷で初めての目覚めを迎えた。
…起こしたくはない…けど…早く準備して…走り込みと素振りをしないと…
杏寿郎さんを起こさないよう細心の注意を払いながらその屈強な腕から抜け出そうと試みるが
「何処へ行くんだ?」
「…っ!?」
寝起きとは信じ難い程のはっきりとした声で杏寿郎さんに話しかけられ、私の肩がビクリと上下した。
杏寿郎さんはそんな私の身体の向きをグルリと変え、互いの身体が向き合うような形に変えられてしまう。
パチリと杏寿郎さんと視線が合うと
「…おはよう」
杏寿郎さんが蕩けてしまいそうなほどの甘い瞳を私に向けそう言った。寝起き独特の雰囲気を孕み、尚且つ私だけを写しているその瞳に
…朝から…刺激が強すぎるんですけど…っ…!
まだ起きて数分しか経過していないと言うのに、私はもうタジタジだった。
「…おはよう…ございます…」
喉の奥からなんとかその言葉を絞り出し、至近距離で私をじっと見つめる杏寿郎さんの目から視線を逸らしながら朝の挨拶を返す。