第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
「煉獄」
「なんだ」
「この間といい今回といい、こいつに頼っちまってすまねぇとは思ってる。だが、こいつ以外連れていける奴は浮かばなかった。悪いが、またこいつのこと借りていいか?」
杏寿郎さんはそう尋ねてきた天元さんをジッと見た後、隣にいる私にも視線を寄越してきた。私はそんな杏寿郎さんの夕陽のようにきれいな色をした隻眼をジッと見つめ返す。
行かないという選択肢はない
杏寿郎さんは私の表情からその意思をくみ取ってくれたようで
「鈴音の決めたことに口を出すつもりはない。心配で心臓が縮んでしまいそうだがな!」
はっきりと、いつものあの快活な声色で言った。
「悪ぃな煉獄」「杏寿郎さんありがとうございます」
天元さんと私が同時にそう言うと、杏寿郎さんは破顔し、ひどく優しい笑みを浮かべた。けれどもその後
「だがひとつ条件がある」
優し気に下がっていた眉と、ニコリとあがっていた口角をいつもの定位置に戻し、真剣な声色でそう言った。
「条件…?それは何ですか?」
首を傾げそう尋ねる私と
「おいまさか…俺も連れて行けとか言うんじゃねぇだろうな?」
さも面倒くさそうな表情を張り付けた天元さんの視線が杏寿郎さんへと集まった。
「そうできれば一番安心なのだがな!さすがに俺とて自分の果たすべき責務を投げ出して鈴音ばかりを特別視することは出来まい」
…いやいやこの間来てたじゃない。2日連続で来て、しまいには一緒に戦うことになっちゃったじゃない…だからこそ勝てたんだけど…
内心そんなことを考えていると
「どの口がいうんだかなぁ」
天元さんも私と同じようなことを考えていたようで、苦笑いを浮かべそう言った。
「わはは!いささか耳が痛くもあるが俺の気のせいであろう」
…気のせいじゃないし
「で、その条件ってなんだよ」
「うむ。伝達役として要を連れて行ってくれ」
「要って…杏寿郎さんの鎹烏ですか?」
「そうだ」