第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
杏寿郎さんの鎹烏である要は、杏寿郎さんが隊士の育成に専念するようになってからも(あまり専念できていないような気もするが)杏寿郎さんの相棒としての役割を果たしてくれているそうだ。
…忠実そうな子だったからな…
思い起こされるのは私の肩に乗り
”杏寿郎様がお待ちだ”
と鴉とは思えない威圧感を放ちながら私に凄んできたあの姿。
「鈴音を連れて事前にお館様のところに行くだろう?その際は俺も共に行く故教えて欲しい」
「わかった。どちらにしろ俺も虹丸は連れていく。こいつの鴉よりお前の鴉の方が色々と気が回るだろうからな。お館様も許可してくださるだろう」
和には申し訳ないが、確かに柱に仕えている杏寿郎さんの鴉の方が頼りがいがある。
「じゃあその間、杏寿郎さんは和のことをよろしくお願いします」
「承知した」
「うし。これで話は纏まったな!」
天元さんはそう言うと、どこに隠し持っていたのか一升瓶を取り出し、それを直接とっくりに注ぎだした。
私も、とりあえず今後自分が何をするか明確になりホッとしてした。ホッとすれば自然とお腹が空いてしまうわけで、私は先ほど杏寿郎さんが物凄い勢いで食べていた煮物へと手を伸ばし、味のしみついた里芋をひとつ頬張った。
やっぱり雛鶴さんの煮物はおいしいなぁ…ん…?でも待って…
もぐもぐと咀嚼している間に、私はふと気が付いてしまった。よく噛んだ里芋をごくりと飲み込み口が空になった私は酒を煽っている天元さんに再び向き直った。
「あの、今後の予定はわかりました。でも、そもそも私が知りたかったのは、どうしてこの邸に置いてもらえないか…だったじゃないですか。その質問の答えをまだもらえてません」
「あぁん?…そういやそうだったな」
天元さんは面倒臭そうにそう言うと、甘辛い香りを発する焼き鳥に齧り付いた。それからジト目で私のことを見ると
「お前がいるとな、あいつらとする機会が圧倒的に減んだよ」
不機嫌そうにそう言った。
「…っ…!?!?」
言われた私はといえば、まさかそんなことを言われるとは予想もしておらず激しく動揺してしまう。