第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
「いちゃついてません!もう!天元さんの話をきちんと聞かないとだめです!」
「もちろんそれは理解している」
杏寿郎さんはそう言うと、私の肩に回していた手を元の膝の上へと戻した。天元さんは私と杏寿郎さんのひと悶着が終了したのを確認すると"話し続けるぜ"と言ってその綺麗な銀色がかった前髪をかきあげ
「奇跡ってのはそう何度も起こっちゃくれねぇ。奇跡じゃなく、上弦に勝る力を得て、必然的に勝てるようじゃねぇと駄目だ。だから俺は里に戻って忍の秘薬の調合法を何としても手に入れる。それが地味で弱ぇ弟子への、後遺症と付き合いながらもまだ戦い続ける馬鹿な仲間への置き土産ってわけだ」
ニヤリと笑みを浮かべた。
「天元さん…」
天元さんにとって雛鶴さんまきをさん須磨さんとの約束を先延ばしにすることはきっと本意じゃない。それでも、杏寿郎さんに私、もちろん同じように戦いに身を投じ続ける私たちのためにそれをしてくれることに、この人の弟子でよかったと心から思った。
「あの里は特殊だ。隠に調べさせるには危険すぎる。だから俺が直々に行くしかねぇ」
厳しい顔でそう言った天元さんの表情から、その行為が危険を伴うことが容易に想像できた。そしてその口ぶりから、雛鶴さんまきをさん須磨さんは連れて行かず、天元さんが一人でその里へ向かおうとしていることが伺い知れる。
…でも…天元さん一人で…どうにかなるの…?
私が抱いた疑問を
「そのような場所に、宇髄ひとりで行って大丈夫なのか?」
隣にいる杏寿郎さんも同じように抱いたようで、はっきりと天元さんにその疑問をぶつけていた。
「……」
天元さんは腕を組んだまましばらく沈黙した後
「…いや。俺一人じゃ無理だ」
そう言った。その沈黙と、いい難そうなその様子に
…あぁなるほど
と、これから言われるであろうことに察しがついた。だから私は
「いいですよ」
天元さんがその言葉を発するよりも早く、それに対する答えを口にした。