第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
「忍の秘薬の効果の持続時間は長い奴で半日程度だ。その間感覚神経を鋭く、そして筋力、持久力が大幅に増す。だが効果が切れたとき、身体が元に戻るどころか元の能力以下になる。そしてその状況から回復するのには、効果が出ていた倍の時間を有する」
「なるほど。使いどころを誤ると危険というわけだな」
「そうだ」
「天元さんは実際にその秘薬を使ったことがあるんですか?」
「一度だけな。里の長である俺の親父に、実験だなんつって俺たちきょうだい全員が飲まされたんだよ」
「…そうなんですね」
そう答えた天元さんは、苦虫を嚙み潰したような表情をしており、あまりいい記憶でないことが容易に想像できた。
天元さんは秘薬を再び懐に戻し、両腕を組んだ。
「むぅ。あまり進んで口にしたくない代物だな」
「だがあの薬の効果は確かだ。時間が経てば、何の影響も残らねぇ」
天元さんは左瞼…まだ傷の残っているそこに自身の手でそっと触れた。
「さっきも言った通り、あん時は、たまたま誰の命も欠くことなく上弦を倒すことが出来ただけだ。次もそう上手くいくとは限らねぇ。…なぁ煉獄」
「なんだ」
「お前が戦った上弦ノ参は、あいつらよりか強かったんだろ?」
杏寿郎さんは天元さんのその問いに
「あぁ。強かった。あの時俺が生き残ったのは奇跡に近い。その奇跡を起こしてくれたのが俺の恋人である鈴音だ!」
私の肩をぐっと引き寄せながらそう答えた。
「っちょ…天元さんの前でやめてください!」
私の右肩をがっちりと掴む杏寿郎さんの手を引きはがそうと試みるが、離すつもりは全くないらしく、ただ無意味に手が触れ合うだけになってしまっている。
「何故だ?これ位いいだろう!俺と宇髄、そして君、3人の仲じゃないか!」
「どういう仲です!?」
いつもの不毛なやり取りをしている私と杏寿郎さんに
「人が大事な話してるときにいちゃこくんじゃねぇよ」
天元さんがひどく呆れた様子でそう言った。