第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
天元さんは杏寿郎さんの質問に僅かに眉間に皺を寄せた。
「この間の上弦との戦い…俺達は幸運にも誰の命も欠く事なく勝利することができた。だがあいつらは"上弦の陸"だ。今後俺たちは、あいつら以上に厄介で、強い鬼と戦わなきゃならねぇ」
「…そうだな。俺も、あの時は我妻少年と嘴平少年に助けられ、なんとか戦うことができた。だが今後も同じように、誰の命も欠ける事なくして上弦に…ひいては鬼舞辻に勝利できるほど甘い戦いではないことは十分理解している」
「あれ以上に強い鬼………ちょっと、想像したくありません」
こんな時
私たちなら出来ます!
なんて言えてしまえればいいのだが、生憎そんことが言えてしまうほど自分の力量がわからないわけでもなければ、安易に出来るなんて言える話でもない。
「だから俺は、少しでも俺たちが勝利する可能性を高めるために、忍びの秘薬…飲めば身体能力が飛躍的に上がると言う宇髄家秘伝の薬の調合方を手に入れるため故郷に戻る。お館様にはその為に故郷に戻ること、そしてそれを手に入れ戻った暁には、柱を引退する許可を頂いた」
「そうか。お館様に既に報告済みであれば、俺からは何も言うことはあるまい。だが、その薬、危険なものではないのか?」
杏寿郎さんが投げかけたその質問に
「そうですよ。飛躍的に身体能力あがる…つまりは身体に何らかの作用が働くわけですよね?そんな事をして、なんの副反応もないとは思えません」
私も同意し、天元さんの赤茶色の瞳をジッと見据えた。
「お前らが察する通り副反応はある」
天元さんはそう言うと懐へ右腕を突っ込み、私の小指の先くらいの大きさがある赤黒い丸薬のようなものを取り出した。
その赤さはまるで血液のようで、なんとも禍々しい気配を放っている。
…出来れば…口に含みたくはない色味だな
そんなことを考えながら天元さんの指先で摘ままれているそれをジッと見ていると
「その秘薬の効果とは具体的にどのようなものなんだ?」
杏寿郎さんが丸薬にぐっと顔を近づけながらそう尋ねた。