第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
そんな杏寿郎さんの行動に
「たいして近くねぇし。つぅかお前ぇもこの話に深く関わってんだから一旦食うのやめて話聞け」
天元さんはさも面倒くさいと言わんばかりの表情を浮かべそう言った。
「わはは!すまない!あまりにも美味い故、手が止まらなかった!」
杏寿郎さんはそう言うと、手に持っていたお箸を丁寧に箸置きへと戻し、正面に向けていた身体を天元さんの方へと向けた。
天元さんは杏寿郎さんの注意が食べ物から自分へと移ったことを確認すると、再び私へとその赤茶色の瞳を向けてきた。
「俺はな、嫁達と、上弦を倒したら鬼殺隊を辞めると約束してんだ」
天元さんのその言葉に
「…っ!」
「そうなのか」
私も杏寿郎さんも驚きを隠すことが出来なかった。
「まじまじ大まじ」
天元さんは軽い口調でそう言いながら、お猪口に残っていた残りのお酒をグイッと一気に煽る。
それからジッと私へと真剣な眼差しを寄越し
「だがその前に、どうしてもやらなきゃならねぇ事ができちまった」
天元さんは意味ありげな様子でそう言った。
「やらねばならぬ事とはなんだ?」
そんな天元さんの言葉に、すかさず杏寿郎さんが尋ねる。その問いに、天元さんは雛鶴さんお手製の煮物を一口食べ、ゴクリとそれを飲み込むと
「俺の家に代々に伝わる薬…"忍びの秘薬"の調合方を探しに故郷に戻る」
先程までの軽い口調から一変、酷く真剣な声色でそう言った。
「…忍びの…秘薬…?」
そんな薬の話は今まで天元さんの口からも、もちろん雛鶴さんまきをさん須磨さんの口からも聞いたことはない。けれども、その名前から、そして捨てたはずの故郷に危険を犯しながら戻ってまで探す必要のあるその薬が、いかに凄い物なのかは想像に難しくなかった。
「それはどんな薬だ?何故その薬が必要なんだ?」
杏寿郎さんは身体の正面で腕を組み、天元さんへと真剣な視線を向けながら更に質問を投げかけた。