第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
何故杏寿郎さんと衣食住を共にすることになったか…それは昨晩、音柱邸で雛鶴さんまきをさん須磨さんお手製のご馳走を食べていた時間まで遡らなければならない。
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「はぁ?ここにまた住みたい?んなもん派手にお断りだ!」
「…え?」
”もう一度この邸に住まわせてください。そしてこれまで以上に厳しい稽古を私につけて下さい”
そうお願いした私に、天元さんが寄越した回答がそれだ。
…え…今…断られ…た?
まさか断られると思っていなかった私は、目を、そして口をぽかんと開きながら酒を煽っている天元さんをじっと見つめた。
天元さんは右手に持っていたお猪口を座卓にいささか乱暴にも思える強さでドンと置くと
「嫁たちとようやくまたこうして過ごせんてんだ。邪魔すんじゃねぇよ」
じとりと目を細め、僅かに睨むようなそれで私のことを見てきた。
「…っ邪魔って…!離れだったらそこまで邪魔にならないじゃないですか!今までだってそうしてきたんだし…私、左耳が駄目な分、そこを補うためにほかの部分をもっと極めたいんです!気配を探るとかより身体裁きの質を上げるとか!」
「んなもん言われなくてもわかってるっつぅの。…だがなぁ!」
天元さんはそう言うと、座卓を挟んで対面に座っている私の顔にその端整な顔を寄せるようにぐっと身を乗り出し
「お前。この俺様が、これまでどんだけお前に気を遣ってやってたか理解してねぇようだな」
半ば睨むように鋭い視線を寄越してきた。そんな天元さんの様子に
「宇髄!鈴音をそんな目で見るのはやめて欲しい!そして顔もそれ以上近づけないで欲しい!」
私の隣で、私も大好きな雛鶴さん特製の煮物をつついていた杏寿郎さんが、私と天元さんの間にその大きな右手のひらを差し入れてきた。