第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
チュン…チュンチュン
……かわいい声…
温かい布団と、それ以上の温かさを背に感じ、私の意識は眠りの世界から徐々に引っ張り上げられる。
外の気配と空気から察するに、今はまだ早朝という言葉が相応しい時間だ。
…着替えて…稽古をしなくちゃ……でもこれじゃあなぁ
私の腹部にしっかりと回っている腕は、寝ている人間のそれとは思えない程に私の腹部をがっちりと抱き込んでおり簡単には抜け出せそうにない。
…杏寿郎さん…よく寝てるみたいだし…起こしたくはないんだけどな
昨晩、天元さんの邸から戻ってきたのは日を跨ぐ2時間ほど前だった。
”任務以外でこんな時間に外を歩くなどいつぶりだろう!”
そう言いながら私の腕を引き、楽し気に夜道を歩いている杏寿郎さんの姿は恐らく滅多に見れないそれで
”夜遅いのでもう少し声を落としてください”
と言いながらも、緩む頬を抑えることが出来なかった。その後杏寿郎さんの邸に着いてからも天元さんから飲まされたお酒のせいか(身体に障るからと多く飲むことはないが、付き合いでお猪口2.3杯程度なら飲めるようになったそうだ)、杏寿郎さんは終始楽しそうで、私のことをなかなか離そうとしなかった。
仕舞いには遅いからはやく湯を浴びで寝ようと言っても聞いてもらえず
”鈴音と一緒じゃないと湯は浴びない!”
と意味の分からないことを言い始め、なんだか小さな子どもといるような気になってしまった。もちろんそんな恥ずかしいことが出来るはずもなく、懸命にお断りをするも、お酒に酔った杏寿郎さんはいつも以上に手ごわかった。
押し問答に疲れた私が
”…明日から毎日一緒に過ごすんですから…ね?もう少し…恥ずかしさが我慢できるようになるまで…待ってください。そうしたら時間が合う日は杏寿郎さんが望めば一緒に入ってあげますから”
投げやりな様子でそう答えると
”そうか!言質はとったぞ!”
杏寿郎さんは酔いなど感じない快活な様子で答えた(私はその時、杏寿郎さんの策にまんまと嵌ってしまったことに気が付いた)。そんな杏寿郎さんの様子を腹立たしく思うと同時に
これから毎日杏寿郎さんと衣食住を共にする
という事実に、自分の身が、そして心が果たして耐えられるのか不安にならざるを得なかった。