第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
街に行けば和が好きな金平糖が買える。いつも買うものと、更にそれよりもいい金平糖を買って、ごめんねの気持ちと一緒に渡すつもりだ。
「うむ!それがいい!ついでに宇髄の家に持って行く手土産も買うとしよう!」
杏寿郎さんはそう言うとくるりと身体の向きを180度変えた。それから再び顔だけ振り返り
「では行こう!」
私に、剣蛸で固くなった右手をスッと差し出してきた。私は杏寿郎さんのその言葉に
「はい!」
と返事をしながら、差し出された右手ではなく左腕にそっと抱きつくように両腕を回した。
「む!そっちは鈴音の顔がよく見えないから駄目だ」
杏寿郎さんは僅かに屈みながら私の顔を覗き込んで来る。私はそんな杏寿郎さんからフイっと視線を逸らし
「……こっちじゃないと、杏寿郎さんの声がよく聴こえないから…嫌です」
小さな声で呟くように言った。
…っ…恥ずかし…
自分の頬が熱くなっていくのが嫌でもわかってしまい、私は思わず視線を真下へと向けてしまう。
「………」
杏寿郎さんはしばらく黙り込んだ後
「…っいかん!素直な君は可愛いがすぎる!」
ぎゅっと苦しいと感じてしまう程の力で抱きついてきた。
「…っちょっと!?道の真ん中でそんな抱きつかないで下さい!」
「問題ない!現状この付近には誰もいない!」
「…い…いなければいいわけじゃなくて…!」
「無理だ!やはり宇髄の家に行くのは後日にしよう!」
「え!?駄目ですよ!みんな待ってますし、天元さんと今後の事を話さないと
!」
もじもじと身体を捩り、杏寿郎さんから逃れようと試みるも、毎度のことながら私の力ではそんなことは不可能だ。
…っどうしよう…杏寿郎さん…こうなったら絶対に話を聞いてくれない…!
これまでの経験上、こうなった杏寿郎さんは自分の意思を決して曲げてくれない。私が安易に杏寿郎さんへと愛情表現をしたばかりに(ん、なんかおかしいぞ?)杏寿郎さんに変な火をつけてしまった。